『琥珀の露・短編』

□水を操る者
2ページ/2ページ



「狐が嫁入りする時に、晴れているのに雨が降ることですよね?」

「そう。その雨を降らせているのは誰でしょう?」

 朔夜が悪戯っ子のように笑む。
 望む答えが、私にも分かった。

「狐……ですか?」

「正解。確かに妖狐の中で水を操る者は稀だけど、僕の家系は代々水遣いなんだ。代々結婚式の盛り立て役ってところなのかな」

 盛り立て役という言葉に私は思わず笑ってしまう。

「責任重大ですね」
「まったくだよ」

「ということは、朔夜先輩が結婚する時も雨が降るんでしょうか?」

 冗談で言ってみると、朔夜は少し驚いた顔をした。

「僕の時、ね」

 呟いた後、私の顔を見てふっと笑う。

「狐が嫁に来るなら降るかも知れないけど、相手が人間の場合は必要無いんじゃないかな」

「え?」

 妙に含みのある言葉が引っかかって問い返す。

 だが、彼は慈しむような微笑みを浮かべたまま、それ以上何も答えてくれなかった。
  


(完)



 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ