『琥珀の露・短編』
□水を操る者
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「狐が嫁入りする時に、晴れているのに雨が降ることですよね?」
「そう。その雨を降らせているのは誰でしょう?」
朔夜が悪戯っ子のように笑む。
望む答えが、私にも分かった。
「狐……ですか?」
「正解。確かに妖狐の中で水を操る者は稀だけど、僕の家系は代々水遣いなんだ。代々結婚式の盛り立て役ってところなのかな」
盛り立て役という言葉に私は思わず笑ってしまう。
「責任重大ですね」
「まったくだよ」
「ということは、朔夜先輩が結婚する時も雨が降るんでしょうか?」
冗談で言ってみると、朔夜は少し驚いた顔をした。
「僕の時、ね」
呟いた後、私の顔を見てふっと笑う。
「狐が嫁に来るなら降るかも知れないけど、相手が人間の場合は必要無いんじゃないかな」
「え?」
妙に含みのある言葉が引っかかって問い返す。
だが、彼は慈しむような微笑みを浮かべたまま、それ以上何も答えてくれなかった。
(完)