『琥珀の露・短編』
□妖狐覚醒
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『朔夜、貴方は封印を守る為に死ななければいけないの』
六歳の時、妖狐としての力を覚醒させた夜だった。
いつも優しい微笑みを絶やさない母が、そう言った。
氷のように冷たい表情で。
封印の為に死になさいと、僕に諭(さと)した。
それが此之谷(このたに)家の、妖狐の子孫の役割だと。
死ぬということがどういうことなのか、正直この時の僕にはよく分からなかった。
だから、素直に頷いた。
ずっとそうしてきたのなら、自分もそうしなければいけない。
それが当然なのだろうと。
頷いて顔を上げた時、母は背を向けていた。
その肩が、僅かに震えているように見えた。