『琥珀の露・短編』
□妖狸覚醒
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眠れなかった。
空には落ちてきそうな位大きな月が昇っている。
まん丸の月、その輪郭が、ふいにぼやけた。
「どう…して……」
涙が溢れる。
心が叫んでいる。
嫌だ、と。
そんなことは、したくないと。
けれど、それを晴海に言い聞かせた祖父は真剣そのもので、怖くて。
逆らうことなど、きっと出来ない。
「俺が、朔夜を……」
妖狸の子孫には大事なお役目がある。
封印を守る為に、なさねばならない務めがある。
どんなに心がそれを厭(いと)うても。
逃れることは、許されない。
祖父の言葉が、何度も何度も木霊(こだま)する。
まだ七歳の晴海が覚えられるよう、何度も何度も。
晴海に言い聞かせるように。
晴海が逃げられないように。
『妖狸は、封印の強化の儀において、生贄の命を奪うのだ』