『琥珀の露・下巻』
□第十章〜封印の湖〜
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夜の静寂の中に、聞きなれない音が響く。
雑木林を三妖と共に進みながら、私は首を傾げた。
「封印、まだ解けてないよね?」
傍らの颯に確認する。
「ああ、まだだ。誰かが戦っているようだが……」
それは一体誰なのか。
視界が開ける。
湖の畔では、黒衣の男と金髪の少年が対峙していた。
「仲間割れかな?」
雷洸の繰り出した攻撃を、墨染は危なげなくかわす。
「よくも僕を謀(たばか)ったな!」
「これは異なことをおっしゃる。謀ったとは?」
「とぼけるな! これはなんだ!? 兄上の力なのに、何故こんな邪気に満ちている!?」
封印の解けかけた湖から漏れ出る力は、息苦しくなるほどに重い闇の気配を漂わせている。
これは那岐の本来の力ではありえない。
雷洸は混乱していた。何故清浄だった兄の力がこのように濁っているのか分からずに。