『琥珀の露・上巻』
□第一章〜出逢い〜
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「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
静子お手製のお弁当と、鞄を持って学校に向かう。
「あの人、いるのかな?」
おそらく昨夜の少年も同じ高校だろう。
そう考えると憂鬱だった。「出て行け」と言われた後でどんな顔をして会えばいいのだろう。
そもそも何故あんな事を言われたのかよく分からない。
「そういえば名前、聞いてない……」
学年も知らない。
もしかしたら学校に行っても会わずにすむかもと少しだけ楽天的に考える。
「きっと大丈夫だよね」
何とか気持ちを浮上させる。転校初日から暗い顔などしていられない。
「おっはよー!」
突然、がばっと後ろから抱きすくめられた。
「きゃあっ」
「あれ?」
悲鳴を上げられたにも関わらず、背後の人物は私を抱きすくめたままだ。
仰向けにその人を見ると、こちらを覗きこんでくる逆さまの顔が見えた。
背が高い。癖のある茶髪。同じ高校のブレザーを着た男子生徒。
きっと先輩だ。
男子生徒は小首をかしげて、呆然と自分を見上げる私を見つめる。
「あー、あかん。名前が思い出せん」
思い出せるはずが無い。初対面なのだ。
「うーん、ごめん。今思い出すからちょっと待っててな」
その間ずっと抱きすくめたままでいるつもりなのだろうか。
それは困る。