『緋色の欠片』
□太古の物語・三神の出逢い
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社(やしろ)の庭に一陣の風が巻き起こる。
漆黒の羽を羽ばたかせ降り立つ人影。
「久しいな、玉依姫」
「お久しぶりです。クウソノミコト」
ヤタガラスの化身であるクウソノミコトは玉依姫の社から山を二つ越えたところに住まう神だ。
「今日はどのようなご用件でいらしたのです?」
「そなたの元に、素性の知れぬ妖狐が住み着いたと聞いた。それは真か?」
クウソノミコトが問う。
その口調は明らかに警戒と敵意を含んでおり、妖狐に対して好意的な感情を抱いていないことがよく分かった。
ゲントウカを紹介するべきか私は戸惑い、一瞬口ごもる。
その時、背後から声がした。
「我(われ)が、どうかしたのか?」
突然の来訪者に気付いたゲントウカが社から出て来たのだ。
「貴様が噂の妖狐か」
「何奴(なにやつ)だ?」
空気が張り詰める。
私は慌ててゲントウカとクウソノミコトの間に割り込んだ。
「この方はクウソノミコトです。クウソノミコト、彼はゲントウカ。故あって暫く共に暮らしています」