『緋色の欠片』
□キツネ耳
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祐一先輩の頭部に生えている獣の耳は白く短い毛に覆われていて、時々ぴくりと動く。
確かに彼の一部であることを訴えるかのように。
好奇心に負け、私は知らず手を伸ばしていた。
白い獣の耳に、そっと触れる。
確かな実体を持ったそれは、仄(ほの)かに温かく、とても柔らかかった。
触れた指先が気持ちよくて、そのままそっと撫でる。
「くすぐったいんだが?」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
我に返り、慌てて手を離す私。
先輩は笑みを浮かべて見つめていた。
「別にかまわない。だが、俺だけというのは不公平だろう?」
「え?」
先輩の手がこちらに伸びる。
耳にかかった髪をかき上げた指先が耳たぶを掠(かす)め、彼の手が、温(ぬく)もりがすぐ間近にあることを実感する。
たったそれだけのことで、心臓がどくんと撥(は)ねた。
「そのままで」