『翡翠の欠片』
□第七章〜兄弟〜
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「克彦、どうしてあんな事をしたの?」
「ただの喧嘩だ。母さんには関係無い」
「関係無いこと無いでしょう。同じ学校の生徒に、あんな大怪我させて。……あの噂のせい?」
「……」
「克彦」
「……あいつらが、親父を裏切り者と呼んだんだ。俺と小太郎を裏切り者の子供と言い、身の程知らずに喧嘩を売ってきた。だから、実力の違いを思い知らせてやっただけだ」
数ヶ月前、壬生の里にある噂が流れてきた。
長く行方不明の克彦達の父親が、実は使命を放り出し、他の村の巫女との間に娘をもうけていたと。
それ以来、里の者達が克彦達を見る目には、裏切り者に対する侮蔑が含まれるようになった。
「克彦、貴方は確かに強いわ。でもね、戦うことが強いだけではいけないのよ。抗うだけではなく、時には現状を受け入れることも、強さなの」
「受け入れる? 母さん、あんな事を言われて、ただ黙って泣き寝入りをしろというのか?」
「違うわ。泣き寝入りをするんじゃない。上手く言えないけれど……」
そう言った母は、言葉を探すように視線を彷徨わせた。
「克彦、いつか貴方にも、分かるといいのだけれど……」