『翡翠の欠片』
□第一章〜日常と非日常〜
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「また、あの夢……」
もう何度、あの嵐の夜の夢を見ただろう。
あれから半年が経った。
あの夜以来、彩子と真緒は帰って来ない。
彩子は多分、もう二度と帰って来ないだろう。
この世に居るという気配が、まるで感じられないから。
信じたくないと心が悲鳴をあげるけど、それが現実だった。
今まで一番強く感じていた母の気配は、あの夜以来一度も感じられなかった。
真緒の方は分からない。
珠洲の能力では真緒の気配について確信を持てなかった。
気配は感じられない。けれど、自分が感知出来ないだけかもしれない。
そう思い、随分と辺りを探し回ったが、真緒は見つからなかった。
自分を庇い、波に攫われてしまったのではないかと、最悪の想像が脳裏をよぎって、珠洲は何度も泣いた。
そして半年、大切な家族が二人も居なくなっても毎日は過ぎていく。
哀しいほどに、いつも通りに。
けれど、完全にいつも通りとはいかなかった。
彩子の儀式が上手くいったのか、半年前の嵐は無事におさまった。
だが、綿津見村(わたつみむら)には異変が残ったままだった。
天気が晴れないのだ。