『翡翠の欠片』
□序章〜胎動〜
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酷い嵐の夜だった。
「珠洲。貴女を、次代の玉依姫に命じます」
外の嵐とは対照的な静かな声で、高千穂彩子は娘にそう命じた。
「謹んでお受け致します」
珠洲は儀礼的にそれだけを答えた。
言いたい事は沢山あった。
自分のような未熟者には玉依姫は無理だとか。
隣に座っている従姉妹の八坂真緒の方が、能力的に優れていて玉依姫に向いているとか。
それでも、彩子は珠洲を指名した。
玉依姫は、高千穂家の直系の血族が継ぐ巫女の名だからと。
そう言われては、反論など出来る筈もなかった。
「真緒。貴女にはこの子の補佐を頼みます。まだまだ未熟な子だから、よろしく頼むわね」
「かしこまりました」
「では、行ってくるわ。貴女達はここに居なさい」
「お母さん、一人で行くの?」
「私のことなら心配しなくても大丈夫よ」
「でも、沖の島まで行って嵐を鎮める儀式をするんでしょう? 波が高くなっているから危険だよ。私も一緒に行く」