『異能のトリオ』
□その2
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翌日の夜は小雨がぱらついていた。湿気を多く含んだ雨の日独特の匂いが、植木の陰に潜む二人の鼻をくすぐる。
「ちょっと、寒いかも」
「提案したのは咲人だろ? いまさら文句言うなよな」
咲人と威社狐は、昨日とほぼ同じ時刻に学校に忍び込んでいた。
また来ていることが師走に知れれば、有無を言わさず帰れと言われることは分かりきっている。だから二人は、科学室の見える中庭の植木の陰に身を潜め、彼が来るのを待っていた。
「本当に今日も来るのか?」
「来るよ。魔物が昼間は息を潜めているものでも、科学室に棲みついてしまったのなら瘴気とは比べものにならない悪影響を生徒は受ける筈だからね。
今日は物が散乱した状態だったから、出入りしたのは一部の先生と業者の人だけだったけど、早く退治しないとまた生徒達が使い始めちゃうし」
「正義の味方気取りってか」
「そういうのじゃなくて、目の前で悪さをする魔物……日本で言う妖を放っておくことはできないってことだと思うよ」
「ふうん」
威社狐がまじまじと咲人を見る。
「お前、魔術使えるんだよな?」
「一応ね」
「じゃあ、師走が来る前にお前が倒せばいいんじゃねえの?」
「ちょっと事情があってね。だからまず、師走の出方を窺おうと思って」
「……捨て駒かよ」
可愛い外見に似合わず、したたかな奴だと威社狐は思う。