『翡翠の欠片』
□第七章〜家族〜
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父の事を考えて泣いていたのだろうか。
小太郎の視線に気付いた母が、手の内の写真を隠すように立ち上がる。
「お腹すいたでしょう? すぐ晩御飯にするわね」
そう言って、台所に行ってしまう。
「母ちゃん……」
自分では頼りにならないのだろうか。
だから、話すらしてもらえないのだろうか。
それが少し悔しくて、小太郎は俯く。
小太郎には父の記憶は無い。
兄の克彦はおぼろげながらも父の事を覚えているらしいが、小太郎が物心つく頃には、既に父は里には居なかった。
だから、正直に言うと父のことなど意識した事がなかった。
小太郎にとって家族とは母と兄の二人だけで、それが当たり前だったから。
けれど、最近になってある噂が壬生の里に流れた。
小太郎達の父が、一族の裏切り者を討伐するという使命を投げ出し、他の村の巫女との間に娘をもうけていた、と。
それを聞いた里の人達は、小太郎達一家に侮蔑の目を向けた。
『裏切り者』と。