『翡翠の欠片』

□第七章〜家族〜
2ページ/17ページ


 父の事を考えて泣いていたのだろうか。

 小太郎の視線に気付いた母が、手の内の写真を隠すように立ち上がる。

「お腹すいたでしょう? すぐ晩御飯にするわね」

 そう言って、台所に行ってしまう。

「母ちゃん……」

 自分では頼りにならないのだろうか。
 だから、話すらしてもらえないのだろうか。

 それが少し悔しくて、小太郎は俯く。

 小太郎には父の記憶は無い。

 兄の克彦はおぼろげながらも父の事を覚えているらしいが、小太郎が物心つく頃には、既に父は里には居なかった。

 だから、正直に言うと父のことなど意識した事がなかった。

 小太郎にとって家族とは母と兄の二人だけで、それが当たり前だったから。

 けれど、最近になってある噂が壬生の里に流れた。

 小太郎達の父が、一族の裏切り者を討伐するという使命を投げ出し、他の村の巫女との間に娘をもうけていた、と。

 それを聞いた里の人達は、小太郎達一家に侮蔑の目を向けた。


 『裏切り者』と。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ