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□恋する乙女
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恋する乙女
偶然、重なっただけだった。落ちたカードを拾い上げようとして、手が重なった。
心臓が、跳ねる。
「あ、ゴメン」
「いや、謝る必要はない」
ふわり、と微かに笑った彼女に見とれかけて視線を外す。
彼女は美人だ。それでいて人を引き付ける魅力を持つ、とても優しい女性だ。自分はそんな彼女に惚れていて、だからこんな些細なことでも心臓をバクバクいわせてしまう。
今は夢に向かって夢中な彼女が心配にもなったりするのだが、彼女は自分のことにはとことん無頓着で、悲しくなる。
それに、もっとスカートだとかそういった女性らしい服装をした彼女を見てみたいとも思う。彼女のことだからきっとそんな服装も似合うはずだろう。いや、もっと魅力的になるはずだ。
「どうしたんだ、ブルーノ」
不思議そうな顔をして、彼女は自分を覗き込んだ。あぁ、そんな表情も可愛らしい。
「ううん、なんでもないよ」
まるで自分の方が恋する乙女のようで、変な雰囲気だ。
好きです、だなんていつ言えるのだろうか。
――END――