SS

□仮置き
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 タギルは走っていた。時折つんのめって転びそうになっても走り続ける。彼の視線の先にはハントの対象であるデジモンと、それを追うアレスタードラモン。今日も今日とて、強くなるためにハントの真っ最中だった。
「いっけぇ、アレスタードラモン!」
「ああ! 大人しく捕まりやがれぇ!」
 敵は追いつかれ焦っている間にもアレスタードラモンの尻尾についたハンマーで殴られる。勢いよくビルに衝突し呻き声をあげると、それは喚くような大声を出し始めた。
「うわっ!」
「なんだこいつ!?」
 狂ったように泣き叫ぶそれは突然暴れ出し不気味な液体を周りに吐き出す。気持ち悪がる暇もないほど乱雑に吐き出されるそれは避けるだけで精一杯だ。タギルもアレスタードラモンも戸惑うしかない。
「タギル!」
 名前を呼ばれてようやく仲間であるタイキとユウが駆けつけて来たのだとわかったがこの現状では危ない。あの液体が害のないものだとはわからない。
「タイキさん、ユウ! 危ないから避けてくれ!」
「え!?」
 しかしタギルが叫んだときには遅かった。ちょうど、タイキのいた場所に吐き出された液体が降りかかる。避けることも出来ずにタイキに敵の吐き出した液体が掛かってしまった。
「うわっ!?」
『タイキ!』
 思わぬ攻撃に悲鳴を上げたタイキにシャウトモンがクロスローダーから飛び出した。タギルとユウも慌てて駆け寄る。
「タイキさん!」
「大丈夫ですか!?」
 タイキは驚いた拍子に尻餅をついたらしい。座り込んで呆然としているようだ。心なしか顔が引き攣っていることにタギルは心配になり覗き込んで手を差し出した。
「タイキさん、大丈夫、で……」
 だが、声をかけてから異変に気づく。タギルまで固まってしまったことに、ユウも怪しみながらタイキの姿を見て――、彼もまた固まった。


 何しろそこにいたのは工藤タイキによく似た少女だったのだ。


「……」
 少女はゆっくりとした動作で自身の胸に手を当てる。それから眉を潜め、タギルとユウに助けを求めるよう視線を送った。その視線は冗談だと言ってくれと訴えているようだったが、やはりどう考えてもこの女の子は尊敬する先輩だとしか思えない。
 さすがに、これにはタギルもどう返せばいいのかわからず視線を泳がす。ユウも戸惑っているのか一言も喋らない。
「あ! あいついなくなってやがる!」
 アレスタードラモンが叫んだことで、原因であるデジモンがいなくなっていることに全員がようやく気づいた。



 結局探してもデジモンは見つからず、とりあえずはとユウの自宅へとお邪魔することになった。先程からタイキは落ち着きがなく自身の体を確かめている。
 ワイズモンでさえ首を横に振る難解な事態だ。これは一筋縄でいきそうにない。ユウはひっそりとため息を吐く。
 ワイズモンによれば、あの液体は体のデータを上書きできる物体で、それがたまたまタイキの性別を上書きしてしまったのだろうということだった。しかし元に戻すといってもワイズモンとて人間はまだ解剖もあまり出来ていない研究対象で、何かあってもおかしくないし危険なのだと首を横に振る。
 一年前の戦いでゾーンに閉じ込められたあの時は心臓のデータを城に送りタイキが死亡した、と認識させるためにタイキの心臓を弄ってやったが今の状態を下手に弄ればタイキに何があるかわからない、と言うのだ。
「さすがに、そんな上手くは行かないか」
 タイキは苦笑してソファーにもたれ掛かる。横にいたタギルも心配そうな表情でソファーの背もたれに肘を掛けてユウを見た。
「どうしよう、ユウ。タイキさんがもしこのままだったら」
「状態はよしてよ、タギル」
 シン、と静まり返る部屋が不気味に感じる。異常な状態なのはたしかだ。
「ま、まかせとけよ! オレっちがあいつを取っ捕まえてやるからよぉ、王様」
「そーだ! オレ達が原因のあいつをハントしますから! 待っててくださいよ、タイキさん」
 負い目を感じるのかガムドラモンとタギルが胸を張ってそのデジモンをハントする、と主張し始めた。なんだか申し訳なくなるのかタイキが眉を下げ、シャウトモンと顔を見合わす。
「大丈夫かぁ?」
「む、保護者面すんなよな!」
 シャウトモンはガムドラモンをまだまだ子供だと思っているのか心配そうだ。タギルに出会ってからはかなり成長しているとはいえ、大事な弟分なのは変わらない。タイキとて、それは同じだ。
「ユウ」
「わかりました、タイキさん。僕も行きます」
 タイキに呼ばれユウが頷いた。タギル一人に任せるつもりはないらしい。
「よっしゃ、早速あいつを探しに行くぞガムドラモン!」
「おぉ!」
「あ、タギル! タイキさんはここで待っていてください」
 勢いよく玄関を飛び出した二人を追いかけてユウもまた駆け出した。ちら、とタイキの方を見てここで待つよう付け加える。
 部屋に残されたタイキはシャウトモンの首に巻かれたマフラーの先を指で弄りながら「どうしようか」と呟いた。胸を触ってみたりするも、特にこれといった得策が生まれる気配もない。
 タギルがいないとやはり静かな室内で、タイキは何度目かのため息を吐いた。

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