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□闇へと消えた巫女
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「さよならだ」
 わけのわからない突然の別れの言葉に、ヨハンは呆然とした。告げた彼女は表情を変えずこちらを見ている。無表情に見えるそれはあまりにも無情だった。
「なに、言ってるんだよ十代」
 うまく言葉が出ない。思考がままならない。ヨハンはそれしか言えなかった。唐突すぎてわけがわからなかったのだ。
 強く吹き付ける風に遊城十代は瞳を細める。
「もう、終わりなんだよ」
 背後に広がる海を振り返り十代は瞳を閉じた。荒波に飲まれる寸前の赤は消え入りそうだ。
「待てよ、十代! まだ話を聞いてない!」
 少女は必死に叫ぶヨハンに微笑んで見せた。茶の瞳はまっすぐに空を見ている。
「この世界が大好きだ、だからオレは――」
 そう呟いた十代の頬に一筋、涙が伝った。だけれど彼女は変わらず微笑んでいる。
「じゃあな、ヨハン」
 大好きだったよ。
 そう言った彼女は、一瞬で光の粒になって掻き消えた。
 ヨハンは絶叫していた。彼女の名を。







2011.12/6
十代さんが巫女さんだったらという妄想。


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