SS・過去拍手

□past clap
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《スモーカー》




「なんだ?」

「え…?」



派出所内でも、俺と肩を並べると囁かれる程、いつも険しい顔をした部下が笑っていた。

愛おしむ様な、そんな柔らかい表情を俺へ向けていた。



「あぁ、いえ…その、まるで天の川の様だな…と思いまして」

「“天の川”…?」

「えぇ。葉巻の煙が」



まるで天を分ける“天の川”の様に見えたと言う。

慈しむ様な目線は俺の吐き出す煙に向けられていたものだった。


それにしたって、



「なんで嬉しそうなんだ」

「そう…ですか?」

「あぁ。お前が笑ってるのなんざ初めて見た」

「あら…」



なんて口元を押さえている。

しかし今日は珍しい事が多い。



「そうでも無いと思いますが…?」

「?」

「大佐を見ていると、時たま顔がゆるんでしまうのです。
だからなるべく気を引き締めているのですが」



キリリと引き締まった頬が、今は緩やかに弧を描いていた。

そう言えば、いつか見た様な記憶がある。


 
「“天の川”のお話しは愉快なものでは無いですが、その2本の葉巻がまるで“織姫”と“彦星”の様で…」



貴重な1年に1度の今日、2人が出会えたさまを見る様で、微笑ましいと。

だからか。と思いつつも、そんな事はとうに頭の隅に追いやられていて、俺の思考は数秒前で止まっていた。



「それなら、毎日会えてるな」

「ふふっ、そうなりますね」

「俺は年に1度じゃ無く毎日見たい」

「“天の川”を…ですか?」

「お前の“笑顔”をだ」







 きらきら




(なっ…!)
(イイな、その表情)
(…)
(もっと色んな顔見せてくれよ。もっと、近くで)


 
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