zoro

□例えばね、愛を語るなら 私から
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問題は色々ある。


まず、この扉を開けたら何と言えばいい?

(こんにちは)
(おはよう)
(元気?)

そして次はどうする?本題に入る前に談笑?

(寝てたらごめんね)
(今日は部屋にいるんだね)
(この間サンジ君が…)


あー…違う、こんなんじゃない。こんなんじゃなくてもっとこう…




「何してんだ?」

「ひゃぁぁぁ!!」




本気で口を押さえて心臓が飛び出るのを阻止した。




「すげぇ驚き方だな」




おかしそうに目を細めている。

格好いい、なぁ…




「何してたんだ?」

「な、な、なんでもないよ。それよりゾロこそどうしたの?部屋にいたんじゃないの?」

「あ?あぁ、いや、倉庫にいた」

「倉庫か…」




甲板にいなかったからてっきり部屋にいるのかと思って来たけど…倉庫だったのか。ならそっちの方が改まった感が無くて良かったな…




「何かおれに用か?」

「へ?…あ、いや、えっと……」




扉を開ける手間は省けた。何てチャンスだ!さあ次は…




「こ、この間、サンジくんが…」

「は?あのエロコックがなんだって?」
 
「え、いや…次の島で買い出ししたいから、船番はゾロでいいかって言ってたんだけど…どう?」

「あー…今回は俺も島に用事があんだよな」

「!、あ、じゃあ私かわりにやるから。丁度ゆっくりしたかったんだ。じゃ」




そう足早に立ち去る。ゾロが何か言っていた様な気がしたけれど、私の耳にはまったく届いていなかった。届かない程心中荒れに荒れていた。






「サンジ君、次の島で買い出しのお手伝いするって言ったけどやっぱり出来ないや…ごめんなさい」

「それはいいけど…どうしたんだい?」




心配そうなサンジ君にありのままを話すと、怒る事も呆れる事もせず、いいんだよ。と言ってくれた。


小さな島で歌手をしていた私は人さらいに捕まり、ヒューマンオークションショップへ向かう途中、この麦藁海賊団に助けてもらった。
そのまま行く宛も無かった私は船に残してもらう事になった。



―――


「名無しさんちゃん、やっぱりおれが残っておいた方が…」

「大丈夫。フランキーは用事が済んだらすぐ帰って来てくれるって言うし、もし何かあったら助けを呼ぶから」




でも…としりごむサンジ君達を説得して1人船に残った。

 
クルーのいない船の上は、いつに無い程静か。遠くの方で波の音がしては、カモメの鳴き声がする。
その波の音に合わせて呟く故郷の唄。私の母も、母の母も歌っていた唄。優しく包み込む様な柔らかい音は、子供が母の胸に抱かれている時の安心感とよく似ている。


ふと、ゾロのまなざしを思い出した。

意志のあるまなざしは強く、何処までも射抜くような鋭さでものを捕らえるけれど、時よりふと、誰よりも優しい目をする。優しいその目に自分が写っている時、とても幸せな気持ちになる。
そんな時は甘い恋の唄を口ずさみたくなってたまらない。むしろ、あらんかぎりの声で歌いあげたい。

でも、ゾロはそんな事絶対にしない。
彼の口から甘い言葉なんて出て来る訳が無い。彼がそう言う性分で無いというのもそうだけれど、何より私にそんな事を囁く義理さえ無いから。
当たり前だ、私はただのクルーで、しかもいつか…むしろ近いうちにこの船を降りる人間。
戦えもせず、歌う事しか出来ない。それもブルックみたいに楽器もひけず、ただ、歌うだけ。


故郷の唄はいつしか愛の唄に変わり、それは更に別れのメロディーを奏でていた。




「随分寂しい歌だな」

「ゾロ…!?、どう、したの…?」

「用事が済んでな。ところでさっきの歌はなんだ?」




小さな自分。でも、大きなこの気持ちくらい最後に轟かせたくて、最近覚悟を決めてはゾロの元へ行く様になっていた。でも…




「これは…、失恋の唄よ」




あからさまにいぶかしんでは皺をよせるゾロの眉間。




「好きな相手に思いも告げられないで、最後には逃げ出す意気地無しの唄」




船を降りる準備はとうに出来ている、意気地無しな私の唄。




「おれの許可無く勝手に失恋なんざしてんじゃねぇよ」




ギュッと逞しい腕が身体に巻き付き、耳をかすめる低い響き。



 
「やっとかと思いきや、なんだそれ」




何でゾロはこんな不機嫌な声を出しているのだろう。

何で私はゾロに抱きしめられているのだろう。




「なぁ、お前の綺麗な声でおれに愛を囁いてくれよ、名無しさん」




そっと手をとられると、目の前でその指にはめられた指輪。

その手はまるで恋人の様に繋がれ、更に抱きよせるゾロの腕によってぴったりと背中に感じるその体温。




「好き」




繋がれたゾロの手。その手の甲に頬をよせる。




「好き。凄く好き。堪らなく好き。もう、どうしようもないくらいゾロを愛しています」




どうしたらいい?そうたずねてみると、なんでか溢れてくる涙を堪えきれなくなった。




「そのまんま、おれを愛してればいい」




こぼれる涙はゾロの舌に舐めとられて行く。




「おれがそれ以上にお前を愛すから」




キラキラと薬指で輝く指輪。
重なる唇。


あぁ、




「好き」








例えばね、愛を語るなら 私から




(どうして指輪なんて持ってたの?)
(さっき買ってきた。男部屋の前を行ったり来たりするお前は可愛かったぜ)
(えぇ…!何で知っ……まさか見てたの!?)
(あぁ。本当はその時抱きしめてやりたかったけど、名無しさんの口から聞きたくてな)
((と、とんでもない意地悪だ…!))




―――――


こちらもカッコで“貴方から甘い言葉が出るのなんて待っていられないわ”と言う言葉を頂いたのですが、少し形を変えて取り入れさせて頂きました。

うちのゾロさんはどうしてもタラシくさくなってしまうのでこんな仕上がりに…orz

 

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