Doflamingo

□例えばね、愛を語るならその羽を休めて
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「いたっ…」




指の先にぷっくりと赤く盛り上がる血。




「お前の肌には赤がよく栄えるなァ」




そんな声が聞こえたかと思えば、棘をさしてしまったために傷付いた指が生暖かい何かに包まれる。




「…!、ドフラミンゴ、さん…」

「フフフッ…」




独特の笑い声を発しながら、私の指を口に含むその姿。




「どうかなさったんですか?また急に…」

「フフッ、なに、名無しさんの顔が見たくなってな」




もうとっくに血の止まった指先をやっと離してくれたと思えば、そんな事を紡ぐその唇。




「ふふ、お上手ですね。良ければお茶でも飲んでいかれますか?」

「あァ」




うちは世界でも珍しい、薔薇を専門に取扱う花屋。ぞくに“薔薇屋”と呼ばれていて、そこで薔薇をモチーフにした小さな喫茶店も経営している。




「今日は丁度、ピンクローズヒップの紅茶葉が入ったんです」




ピンクがかった紅茶に浮かぶ、これまたピンク色の薔薇の花びら。
それだけ見ればあまりに乙女チックな代物だけれど、彼がそのカップに手をかければ不思議と違和感が無くなる。



ある日、結婚式のためにご予約頂いたお花を届けるため、抱えていた100本のピンクの薔薇。
その薔薇にも負けない程派手なピンクの羽に、私は目を奪われた。




「やっぱり名無しさんのいれるやつは美味いな」

「お茶と、薔薇がいいからですよ」




そして、彼もまたこの薔薇を気に入ってくれた様で、それから時々こうして、薔薇を眺めてはお茶を飲みに来てくれる様になった。


お茶を飲んで、他愛も無い話をして、それだけ。
ただのお客様と店員。けれど、彼がこうしてただのお客様として私の前に現れてくれるのは、とても特別な事の様に思えるから。
 
花屋に来てはお茶を飲む姿なんて、きっと他の人は知らない。他にもたくさんいるであろう、どんなに綺麗な女性でも。きっと見れない。




「すいません」

「え?あ、はい。紅茶のおかわりですか?今お持ちし…」

「違います」

「?」

「あの、おれ、前から名無しさんさんが好きで…その、絶対後悔させません、絶対幸せにします。だから…!」

「きゃっ…!」




そう肩を捕まれ、思わず後退った所にあった薔薇の鉢につまづき、体勢を崩してしまった。
持っていた紅茶のポットが手から離れるのが見え、咄嗟にキツく目をつむり身構えた。
が、予想した衝撃は無く、むしろ身体はしっかりと支えられている。


恐る恐る目を開ければ、立ち込める薔薇の香りと共に飛び込む、ピンク色の羽。




「消えろ。ここを血で汚したくはねェからな」




こんな風に彼を見るのは初めてで。
半月形の口元は、その凶悪な台詞とは逸して酷く艶やかで、目をそらせない。




「大丈夫か?名無しさん」

「…あ、はい。それよりドフラミンゴさんの方が…!」




髪の先からポタポタと落ちる滴。




「フフフッ、こんなはずじゃ無かったんだけどなァ」

「あの、シャワーを…!」




慌ててお店には『Close』の札をかけ、上着を預かるとバスルームへ案内した。



幸い上着にはあまりかかっていなかった様で、フワフワとした感触が手に馴染む。


彼はああ見えて、実にまめな人だと思う。こうしてたまに顔を見せに来てくれては、必ず私がまえにプレゼントした薔薇の香水をつけてきてくれる。

その羽をギュッと抱き締めると、むせ返るような薔薇と、彼の香りに包まれる。


たくさんの中の、たったひとつの宿り木でも構わない。それで幸せ。

 
フワリと香る薔薇の香りにいざなわれ、いけないと思いつつもそのままベッドに横になれば、まるで彼に抱き締めらているような…






「…んぅ………、あっ…!」




そのまま眠りについてしまった様で、ふと目が覚めて慌てて起き上がる…も、身体が動かない。




「ん?あァ、起きたか。名無しさん」

「す、すいません…!あの、起こして下さってよかったのに…」




私の身体は、ドフラミンゴさんの逞しい腕に抱かれていた。




「フフッ、あんまり可愛い顔して寝てるもんだからな。それにあんなのを抱いて」




視線の先にはピンク色の羽。




「あっ…!の、いや、すいません、あれは…」




恥ずかしい。大勢のうちの1人でも十分だ、なんて思っておきながら…




「フフッ、構わねェよ。ただ、少し妬けた」




そっと私の頬を撫ぜるその指に、背筋があわ立つ。

日はすっかり落ちて、窓からさす薄明かり。
月は浅黒いその肌を照らす。
いまだ香る薔薇の甘い匂い。

どうしようもなく、愛しい。




「どうせならおれを抱いて眠ってくれりゃいいのに」

「…いいんですか…?」

「フフフッ!おれは名無しさんを抱いて眠りたい」



 
むきだしの胸に、恥ずかしげもなく抱きつく。頬をよせると感じる、温かなぬくもり。

たくさんのうちの1人でも十分幸せ。でも…




「本当はもうどこにも飛んで行かないで欲しいのです」








例えばね、愛を語るなら その羽を休めて




(昼間のヤツみたいなのはよく来るのか)
(そんな事は無いですよ…!ただ、……たまに…)
(フフ、少し目を離しただけでこれか。やっぱり、手元に置いとかなきゃならねェな)
(?)
(フフフ、名無しさんこそ、おれの腕の中から逃げるなよ?)


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