Doflamingo
□例えばね、愛を語るなら 耳元で甘く囁いて
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私はしがない下っ端三等海兵…だったのが、今では海軍本部大参謀中将つる様の側近的立場に……
何故そんな事になったかと言えば…
「フフフッ!予想以上だな」
今私を上から下まで、まるで舐める様に見つめる、王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴ様が発端で…
「あの、おかしくは…無いですか…?」
「あァ、良く似合ってるぜ。いつもあのいけすかねェ制服を着てるのしか見てねェからな、更にそそるぜ?」
そう頬に手をあてがわれ、親指で撫ぜられる。顔が赤らむのを止められないが、「似合う」と言ってもらえたのはとても嬉しい。
今日はつる様のご友人の結婚式があると言う事で、私はつる様のおつきとしてお供する事になった。
そのための正装をしていた所にドフラミンゴさんがいらっしゃった。
「しかし良いなァ…ただ、この姿の名無しさんを他の野郎が見ると思うと…フフ、気に食わねェな」
そっと抱き寄せられると、ベッドに腰掛けるドフラミンゴさんの膝の上に。
「このまま、飾って置きてェな」
細身の、シンプルなハイネックのタイトドレス。ノースリーブの腕にはロングの手袋をはめて、一番露出の少ない物にしてもらったのだけれど、胸元が菱形にあいている。
髪は結い上げてもらって、薄くお化粧もしてもらった。
「閉じ込めちまいてェ」
菱形にあいたその胸元に、ドフラミンゴさんの唇が落ちて来る。
「私も…折角ならドフラミンゴさんとお出かけしたかったです」
「!、フフッフフフフ…!」
「名無しさん、そろそろ出るよ」
部屋の外から聞こえたつる様の声に返事を返し、居心地の良かった膝から立ち上がる。
名残惜しくはあるけれど、つる様を待たせてはいけないので、「行って参ります」と部屋を出た。
「フフ、あァ…いい傾向だが、こりゃある意味生殺しだな」
―――――
式は本当に素敵で、美しい花嫁さんと、幸せそうな花婿さんの姿が今も目に浮かぶ。
「少し挨拶をしてくるから、名無しさんはここにいて構わないよ」
場所は披露宴の後のパーティー会場へと移っていた。
海軍関係者も多い様で、見覚えのある顔も数人伺えた。しかし、声をかけられる様な間柄の人は勿論いないので、私は隅で静かにノンアルコールのワインを飲んでいた。
「名無しさんさん…?やっぱり名無しさんさんだ」
ふと声を掛けられ視線を上げれば、確かに何処かで見覚えのある顔…
「いつもの制服姿では無いから分からなかったよ。いや、実に美しい」
「…ありがとうございます」
名前は分からないけれど、多分海軍将校の方。
今更名前を伺うなど失礼なので聞けないが、向こうは私の事をよく知っている様で。
しかしそれも無理は無い…
「これならば、あの七武海が虜になるのも納得だ」
「あの…」
「おっと失礼、あまり大きい声で言ってはならない様だね」
「いえ…」
大参謀つる様の側近としてもそうだが、何より海軍内部では“ドンキホーテ・ドフラミンゴの女”として名前だけが1人歩きしている。
顔まで知っている人は少ないが、大きな会議に顔を出す事のある将校以上の方なら、お会いしている方も少なくは無い。
「アルコールは飲まないのかい?」
「あまり得意では…」
「なら駄目ではないのだろう。折角なんだ、飲みなさい」
そう、ノンアルコールのワインを普通のワインへ持ち替えられた。
殆ど飲みなれていないアルコールの刺激は、私の喉には痛いくらいだった。
それでもこの状態で残すだなんて事は出来なかった。
「名無しさん…?どうしたんだい」
気付けば立つ事もままならず、私は隅の椅子にへたりこんでいた。
「すいません…つる様……」
「いや…、誰かに飲まされたんだね。目を離したのが悪かった、迎えを寄越すからもう帰りなさい」
「すいません……」
迎えに来てもらった車の中で、何とか自力で歩ける程度に回復したが、ふらつく足取りのまま自室の扉を開けた。
「ドフラミンゴ…さん…?」
「名無しさん、早かったな」
「待っていて、下さったんですか…」
「あァ、やっぱりその姿の名無しさんをもっと見たくてな。フフッ、…名無しさん…?」
扉を開けて、そこにいてくれたその姿を見て、情けなくも一気に気がゆるんでしまった。
もう、衝動のままその胸に抱きついて、ギュッとその背中に腕をまわす。
「名無しさん…!?」
「ドフラミンゴさん…」
「お前…、酔ってるのか…?」
私を引きはがそうとする腕に抵抗して、更にキツく腕を絡める。
「みんなして…みんなして悪く言うんです…!」
「名無しさん…?」
「みんなドフラミンゴさんの事悪く言って…みんなドフラミンゴさんの事なんか何にも知らないくせに…!」
『あんな野蛮な海賊なんかじゃなく私の所に来ればいい』
『無理矢理付きまとわれて辛いだろう』
『可哀相に』
そう、みんな口々にドフラミンゴさんを罵っては、私を哀れむ。
でも誰も、彼の事なんて何にも知らない。
海賊で、名が知れ渡る程の悪行を働いて来たのは事実。きっと今でも、私に見せない所で続いているのだろう。
それは、どうであろうと許されざる罪。
でも、それでも…
「私は、ドフラミンゴさんが好きなんです」
例えその罪を共に償う事になろうとも、彼を愛する事自体が“罪”であったとしても、もう戻れない。戻りたくない。
「こんなに優しくて、格好よくて…私なんかを愛してくれるんです…」
例えいつか尽きる愛だとしても、“今”まで疑いたくない。
「誰が信じなくたって『愛してる』といってくれたその言葉を、私は疑いません」
だって私も、もうどうしようもなく…
「愛しているんです」
「名無しさん…」
気付けばその逞しい腕の中で泣きじゃくる私を、ドフラミンゴさんはキツく抱き締めて、その大きな手で優しく撫ぜてくれた。
「名無しさん…、お前だから愛するんだ。お前だから、一生の愛だって誓える」
私の涙を舐めとっては、そう呟く愛しい唇。
「“一生”なんて、途方もなく長く見せかけた“一瞬”だ」
むしろそんなもんじゃ足りない。そう、私の薬指に口づける。
私は、吸い寄せられる様に、その頬に口づける。
「フフフッ!そこは、こっちが良かったな」
「んっ…!」
いつもむつごとを囁く唇が、私の唇に重なる。
「ぅ…、ん、ふぅ…っ」
身体はベッドに寝かされ、クチュ…という唾液の絡まる音が耳について離れない。
「はぁ……、好き、です」
「フフフッ…!あァ、おれは愛してる」
誰が聞いている訳でも無いのに、私の耳元で小さく呟かれる、一際甘いその言葉…
「喰っちまいてェくらいに」
例えばね、愛を語るなら 耳元で甘く囁いて
(フフッフフフフ…!とうとう来たか、この日が。名無しさん、悪いが今まで耐えた分今日は手加減出来ねェくらいに…)
(…)
(名無しさん…?)
(…)
(まさか…)
(スー、スー…)
(本当に生殺しとは…笑えねェな、フフ…)