Doflamingo

□君不足深刻化
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「いいなァ、フフッ…」




口を付いて出た言葉に名無しさんがくるりと振り返った。
それによって、彼女が身に着けているエプロンの先がひらりと舞う。
見やれば色付く頬。




「あの…そんなに、見ないで下さいますか…、恥ずかしい…です」

「フフフッ!その顔がまた堪らねェ」




おつるさんに茶を出すやら、客が来るやらであくせく動き回る名無しさん。
慌ただしげなのはいつもの事だが、今日は給仕の手伝いとやらでエプロンを付けて作業していた。

愛らしいその姿に、頬の弛みを押さえる気も無い。




「…、楽しい…ですか?見ているだけですが…」

「あァ、かなりいいぜ。その格好の名無しさんが俺の家にいて、クルクル動き回ってるのを想像するだけで、堪らなく愉快だ」




俺が更に頬を持ち上げれば、名無しさんはカァッと赤く染まる。

愛でれば愛でる程に、愛らしい反応を示す。ただ、




「む、向こうを手伝って来ますので、失礼します」




それだけ。

それ以上に、名無しさんから何かを望まれる事は無い。
元より極無欲な女だから、他の奴等の様に何かを媚びる何て事ある訳は無いが、それにしたって求めない。



 
「名無しさん」




名前を呼べば立ち止まり、




「来い」




手を差し延べれば寄ってくる。




「愛してる」




愛を囁けば、




「は、はい…、………っ、い、行って来ます…!」




途端に離れる。




“鷹”が来て以来、名無しさんの口から「好きだ」とか「愛してる」だとか言った言葉を聞いていない。つまりはあれきり。
“恥ずかしい”と言うのは見ていればよく分かるが、結局名無しさんを抱いてもいなければ、キスの一つもしていない。

あまりに求めない。欲しがらない。
まるで、愛される事さえも求めていない様な…




「らしくないな」

「“鷹”の次は“赤髪”か胸糞わりぃ」

「まぁ、口が悪い事。
冗談のつもりだったのに“鷹の目”の反応が良かったから見に来てみれば…何、倦怠期?」

「フッ、一興だ」




こいつは鷹なんかより面倒だ。あいつはあいつでタチが悪いが、今コレの相手をする気は無い。

そう思い名無しさんがいるであろう部屋へ行こうと腰を持ち上げたのに、何故か後ろを離れない赤髪。




「なんだ」

「え?あぁ、このままついて行けば、かの王下七武海を骨抜きにした乙女に会えると思って」



 
白ひげより、こいつを片付けるか。




「誰がテメェなんざに見せびらかすかよ」

「鷹の目に言いふらしたわりにはおれ本人見た事なくてさ、冗談で見て来てよ。って言ったら、あいつ“あれは良い。欲しい”とか言うんだもん。こりゃ1度拝まなくちゃ」




鷹の目…次は確実に消してやる。絶対。




「あ、でも俺ここでのんびりしてたらマズいんだよ、本当は。だからちょっと来てくれる?」




コレの相手をしてやるだなんてまっぴらごめんだ。そうつっぱね様と思ったが…




「ちょうどいい。名無しさんはこれからもっと忙しくなるから、あんたの相手はしてやれないよ。どうせ邪魔するなら少し暇を潰してくるといい、ドフラミンゴ」




なんて言うおつるさんの言葉を聞いて図に乗った赤髪に、じゃあいいだろうなんて連れていかれるハメになった。




―――――


結局こいつを“無法地帯”まで連れて行き、用事が済むのを待ってまたマリージョアへと戻った。




「いやさー、シャボンディー諸島で少しでも騒ぎを起こせば直ぐに話が広まるだろ?それは困るけど“無法地帯”には少し用事があってね。となれば“虎の威をかる狐”が一番」



 
いやぁ、実に頼もしかったよ。なんて声が実に耳障り。いつに無く気分が悪い。


今日はまだ名無しさんとゆっくり話も出来ていなければ、顔だって十分に見れていない。まぁ、1日中見ていたって満足はしないが。

もっと近くで、その甘い香りを感じる距離でむつごとを交わしたい…




「薬で治らぬ恋患い。つらいねぇ…」

「フフ…テメェ、いい加減殺されてェか?」

「いやいや、とんでもない。少し冗談が過ぎたのは申し訳ないが、随分心が広いからついついね」




あぁ、名無しさんがいなけりゃこんなやつ、直ぐに片付けてやるが、名無しさんがいなかったら、こいつに目かど立てる事も無かっただろう。




「早く帰れ」




これ以上汚れた手で名無しさんに触れたくは無い。



「じゃあお詫びと言ったら何だけど、“薬”をあげよう」




こいつが訳が分からないのは存在からしてだ。今更その辺に食い付く事も無い。


 
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