Doflamingo

□またくちづけを交わした
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「フラれた」




お腹の中でグルグルとしていた言葉が煩わしくて、吐き出した。

決して自慢出来る事では無いし、むしろ人に話すには恥だ。けれどそのままにしていては、そこから腐敗臭を放ちそうで嫌だった。
散ったのならば、せめて散り際くらいは潔く、綺麗にいたいものだ。

あぁでも、いい加減、この桜の花びらみたいに、落ちて踏まれて、土にかえりたい。




「フフフッ、相変わらず見る目がねぇな」

「!、ドンキホーテ先輩…!」




唐突に、背後から投げつけられた言葉。

よりによってこの人に聞かれるとは…と顔を引きつらせれば、ゴールドのリングが眩しいその指に、ムニッと唇をつままれた。




「お前は本当、見る目も無い上に物覚えも悪いな」

「んんーっ!」




ペシペシと彼の腕を叩けば事も無げに手を離した。

抗議の一つもたれたかったが、彼の言う意味が分かったため、それはひかえた。
口答えた所で私に勝ち目はないので。




「卒業式はどうしたんですか、“ドフラミンゴさん”」




フフフ、とまた独特な笑みをこぼして私の前の席に腰掛けた金髪頭。




「卒業しないのに、式なんか出る訳ないだろ?」

「あー、そうでしたねー…」




ドンキホーテ・ドフラミンゴ

私がこの高校に入った時、彼は3年生の先輩だった。でも私が2年生になっても彼は3年生で、私が3年生になる今、彼はまだ3年生だ。




「まったく、いつまで3年生でいるんですか」

「フフ、来年辺りには出ていくさ」




あぁ、そうだった。と思い出して、冗談めかして口をついて出た言葉を恨めしいた。




「そうでしたね。
それにしたって、とうとう“同級生”ですよ?」

「もうそうなるか?はえーもんだな、フフッ」



 
超絶短気だと自他共に認めるが、ある意味相当おおらかな人と言えるもしれないこの時間感覚。
まったくとんでもない人だ、と呆れる気さえ起きない。

それでも、このまさにキテレツな人間をもう1年見ていられるのか。と、それをはばからずも喜んでさえいる私は、相当に毒されている。




「もう二十歳じゃないですか」

「フフ、そう。もうセージンだと。これで酒も煙草も解禁だ」

「いやいや、もうとっくに自分の中じゃ解禁してるくせに」

「そうだったかー?」


「そうですよ」と言えば「流石 名無しさんちゃんだ」と言う。




「そう言えば、卒業したらどうするんですか?」

「随分先の話しだな」

「来年でしょうが」

「フフッ、そうだったな。まぁとりあえず、親父の会社でも継ぐかな」

「全国でも3本の指に入るベンチャー企業の社長の椅子をとりあえずって…凄い布石ですね、それ」

「フフフフッ」




愉快に笑うその顔。
何よりも幸せだった時間が、今は鞭打ちの様に痛い。


初めて会った時からもう、引き返えせないほど魅了されていた。ずっとずっと焦がれていた存在だったけれど、私が2年に上がった辺りからまことしやかに囁かれている噂があった。


“ドンキホーテ・ドフラミンゴには2年生の中に婚約者がいる”

“その婚約者と一緒にいたいがために卒業しない”


よりにもよってこの人がそんな事…と思ったけれど、確かに私達の学年が入学してから暫くすると、常に彼の周囲を取りまいていた女性の姿が見受けられ無くなり、たちこめていた数ある噂も息を潜めた。


惹かれて、焦がれて、堪らなく、好きだった。でも、彼がそんなにも入れ込む程の人に敵う訳が無いし、何よりそんな不毛に心血を注いでこの関係自体を崩してしまう方が、耐えられない。
だから入学してから“恋多き女”としてやってきた。




「で?」

「?」

「お前は誰にフラれたんだ?」




「あなたにですよ」何て言えるはずが無い。




「あー…先輩です。今日卒業した。記念だから第二ボタン下さい。って言ったら、もう予約済みなのでごめんなさい。って」




事にしておこう。




「それ、何処のクラスのヤツだ?」

「え、…何でドフラミンゴさんに言わなきゃなんないんですか」

「フフッお前は可哀相なくらい男を見る目が無いが、そいつの方が更に見る目がねぇと思ってな」




私が誰かと付き合ったり、フったりフラれたりする度この人はいつも言うのだ。「お前は本当に見る目がねぇ」と。確かにいつもあんまり長続きしないし、最近は玉砕ばっかりだけど、アンタに言われたかない…!
…でも今日は何か付け足された…




「お前をフるなんて、見る目のねぇヤツだ」

「……何ですかドフラミンゴさん、出家でもするんですか」

「ハァ?」

「いや、だって私にそんな事言うだなんて…はっ、好きな人でもいるんですか…!?」

「フフッ、何でそうなる」

「私を持ち上げといて、その辺の事に上手く使おうって魂胆かと思って」

「フフフッ!そんなせせこましい事しなくたって女何か寄って来る」

「あ、そうか…」




何納得してんだか…。でもそうか。本来女の人なんて邪魔くさいほど寄って来る人なんだから、こうして他愛も無い話を出来るだけで実はレアなんだ。




「いや…、そうでもねぇ時もあるな」

「嘘だー、世界中の女を掌で転がしてそうです」

「フフフ、これが転がらねぇ女もいるんだよ」




あぁ…“婚約者”か。まぁ、こんだけクリーンなイメージ作りするくらいなんだから…




「うわ、こんな超玉の輿をもったいない!」

「フフッ!ならお前が乗るか?玉の輿」


「NO!それはご遠慮させて頂きます。私はささやかでも愛のある家庭が築きたいんです」




あなたと。




「フフフ、遠回しに失礼なヤツめ」

「でもドフラミンゴさん、変わりましたよね」

「そうか?」

「はい。初めて会った時と比べたら、だいぶクリーンなイメージです」

「フフフッ!そうか。ならお前は初めて会った時と比べてだいぶダークになったな」

「…そうですか?」

「あぁ。最初は天然記念物かと思うくらい夢見る乙女だったのに、今じゃ恋多き魔性の女だ」




そう、まるであなたの回りにいた女性達みたいでしょう?




「そうですねー…あ、でも、これでもまだ立派な乙女ですよ」

「ほぅ?」

「だって、本当は2年間思い続けているんです」




あなたを。




「ある人を。でも絶対に叶わないから、新しい恋に走ろうと思ってるうちこんななっちゃった…と言う感じで。
不毛な恋に炎を燃やす…ほら、乙女じゃないですか」




あなたの好みに近付いたって、結局は意味が無いのだ。本来の自分を偽って無理したって、報われないのだ。なら、もう遅くたって甘い恋を夢見る乙女に戻ってしまおう。

あなたから一番遠い自分に。

 
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