Doflamingo
□その腕で絞め殺して
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「別れようぜ」
ほんの暇つぶしだった。
「なァ、名無しさん」
だからまさか、彼女がそんな顔をするだなんて思わなかった。
「フフ、冗談だ」
だから直ぐにその下らない戯言を撤回した。
「そう、でしたか。よかった…」
すると、間も無く彼女の顔にはいつもの微笑みが咲いた。
「私もお話しがあったんです。」
そうだ、俺が好きなのはその顔だ。
馬鹿な戯言を口にした自分を戒めつつ、思わず頬がつり上がる。
「なんだ?」
「お別れして下さい」
「お前と?」
「ええ」
聞くまでもない。
今、別れるだなんだという色恋の話しで思い当たるのは彼女しかいない。だから“別れる”だなんて稚拙な言葉を、恥ずかしげも無く使えた。
俺は彼女に惚れて、惚れて、惚れ込んでいる。
「私はもう、あなたを愛せない」
なんだ、この感覚は。
ゆっくりと、水底に沈んで行く様な。
「愛せる自信が、ありません」
圧迫された肺の、掠れる様な呼吸が耳につく。
「ごめんなさい」
ドクドクと脈打つ心臓の音が、まるで残り時間を知らせる様に内から、激しく、激しく叩き付ける。
言葉なんかより早く、この腕が彼女を求めた。キツく、キツく抱き締めた。それでも背に寄り添うこの感覚は消えない。
すっと身体中の血液が引いた。心臓は突然去った血液を求めて激しく叩き付ける。
酸素の回らない肺はひゅーひゅーと掠れた呼吸を繰り返す。
尚も心臓は叩き付ける。早く血液を、早く酸素を、早く、名無しさんを。
「ごめんなさい、冗談です」
何があっても、この腕を解くものか。
何があったって、絶対に、絶対に。
「もう二度と、こんな冗談は言いません。だから、」
俺も、二度と、一生、そんな冗談を口にはしない。
「ごめんなさい。不安なら、」
その腕で絞め殺して
(でも、出来たら明日もその腕に抱かれたい。出来たらその声で甘くとろかしてほしい。)
(明日も俺はこの腕にお前を抱く。この声でお前の脳まで溶かしてやる。殺してなんかやらない)