Doflamingo

□発育、良好
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多分、彼に対してこんな顔をして許されるのは、今の所私だけだろう。



「名無しさん!」

「…」

「フフッ“いらっしゃいませ”くらい無いのか?」

「あなたは客じゃないですから」

「フフフッなら“お帰りなさい”がいいなァ」

「……お帰り下さい」

「フッフッフッ」



このピンクのもふもふが来る度、たちまちお店の中はカラになってしまう。

そんな疫病神を何故“お客様”と言えよう?



「はぁ…自分の仕事は?」

「名無しさんに会う事が俺の仕事だ」

「あらそう…、でも私はあなたに会うのが仕事じゃないの。言ったわよね?」

「フフ、他の男に奉仕するのがお前の仕事なんだろ?」

「はぁ……」



一体何と張り合おうって言うのだろう…この王下七武海様が。



「あなたのへそが元からねじ曲がっているのは知っているけど、それ以上に捻くれないでくれる?」

「フフフッそう言われたってなァ。俺のへその形まで知ってる愛しい女が、他の男に愛想振りまいてんだ。嫉妬くらいするさ」

「あら、王下七武海様に嫉妬して頂けるのは身に余るくらいだけれど、こっちは商売あがったりなの」



そうだ。この男が店に来ては今にも噛み殺さんばかりの殺気を放つものだから、たちまちお客様は逃げ去り店はもぬけの殻。
あっという間に、閑散としたカウンターでチビチビにやにやとお酒を飲む彼の貸し切りに。



「フフフフ!そしたら嫁にでもなんでも来ればいい。隅々まで面倒みてやるよ」

「…はぁ……」



私は別に海軍でも無ければ、ましてや海賊でも無い。

ただのしがないバーの店主。
ただ少し特異な部分と言えば、海軍本部元帥センゴク氏を“おじさん”と呼べる関係である事くらいで。
 
だからと言って、暗躍するセンゴクおじさんのもくろみを小耳に挟んでいるわけでも無ければ、政府公認の大海賊を手玉に取ってはあしらう魔性の女でも無い。



「しかし随分似合わない台詞ね。かのドンキホーテ・ドフラミンゴが“家庭を持つ”だなんて」



そう、笑えるくらい不釣り合い。



「フフ、そうかァ?」

「そうよ。あなたには、今店の前でチラチラこっちを見てる、ああいうオネェチャンをはべらせているのが似つかわしいわ」



しがないバーの店主より。



「フフッ!フフフフッ!!いや、良い。今日は“記念日”だ」

「?」

「名無しさんがやきもちを焼いた!」

「…」

「フッフッフッ!」

「ご機嫌になって頂けたならなりよりですわ。さ、機嫌の良いうちにお帰り下さいな?」

「フフフッ、そんなに早く帰りたいか。いいだろう、今日は昨日よりもじっくり激しく…」

「調子にのるなバカフラミンゴ!店仕舞いだからさっさと出てけって言ってんのよ、邪魔!!」



モップを引っ掴んでヤツを追い立てれば、怖ぇ怖ぇなんて言いながらニヤニヤといつにもまして弛みきった顔でやっと出て行った。

魔性の女では無いが、ヤツに対して“やきもち”などを焼く程、私は乙女では無い。
誰がこんな不毛な愛に水などやるか。


確かにここに“愛”はある。でも育たない芽だ。
不毛の芽に水をやりつづけて、自分自身を枯らす様な真似を誰がするものか。




―――――


私は別に海軍でも無ければ、ましてや海賊でも無い。

それでも時に勘違いした人達が…



「ココが七武海を手玉に取った女の店か」



とやって来たりする。



「ケッ、それにしたって、あのドンキホーテ・ドフラミンゴの女と聞いてみりゃ、こんなのか」

「間違えてんじゃねぇのか?」

「いや、確かにココだぜ」


 
“こんなの”ごときを、大の男3人で取り押さえないで頂きたい…

しかしこんな様な事は、無いでも無い。



「…あの、ご用件は?」

「あ?」

「何かご用がおありなのでしょう?例えばドンキホーテ・ドフラミンゴに」

「物分かりのいい女だ。そう、ちょっとヤツの首を頂きたくてね」

「そのためにアンタに協力してもらいたくてさ」

「…構いませんが、私を使って彼を呼び出そうと思っていらっしゃるのなら無駄ですよ」

「何故?」

「あなた方のおっしゃる通り、たかがこんな女ですから。呼び出した所でわざわざ彼が来るとは…」



彼が来るにはまだ時間がある。

そう思っていたのに、下品極まりない笑い声に気分が鬱屈する。これなら彼の笑い声の方が100万倍はいい。よく見れば人の事を言えた面でも無いし。



「健気な女だ。悪りぃが調べはついてるんだよ。奴が毎日このバーに通い詰めてるってな」

「…」

「しっかし、あの王下七武海がこんな女1人に入れあげてるたぁ名が廃るな」

「案外楽勝だな」



馬鹿面丸出しだが、彼の首を取ろうっていうのだからそれなりに考えてはいたのか。

でもだからと言って…



「女1人ごときはがいじめにして、不意を突こうとせせこましい考えしか浮かばない腰抜けに、彼を打ち取れる訳がない」

「あ゛ぁ!?んだと、黙れクソアマが!!」



ガッと鈍い音がしたと思えば、私の頭はカウンターに打ち付けられていた。



「黙るのはお前だ」



ところが唐突に解放された。

思わぬ事に腰から砕けてしまった。

ふと見やれば、氷…



「女の子によってたかって力技とは感心しねぇな。むしろ男のクズだ」

「!!ア…アンタは、大将…」



青キジ…
 
何故そんな海軍のトップクラスがここにいるのか…それよりも私は、彼が痛ましそうに私を見つめ、額に滲んだ血を拭う方が不思議だった。



「オイ、クズ共。沈むか?」



その覇気に、けおされる。



「ひぃっ!……んな、な、なんで、なんで青キジが…この、女を…」

「ん?そりゃあ…、名無しさんちゃんが俺の女だから」

「「えぇっ!!」」



……例えば色々と…、何故私の名前を知っているのかとか、私いつ大将殿の女になったっけとか…



「だ、だってコイツは、ドンキホーテ・ドフラミンゴの…」

「違う違う。なんなら証拠に…」



なんてへらりと言ってのけると、私の顎を捕らえ腰を抱き寄せ、くちづける…






「殺してやる」




この、地を這う様な響きを、心地よく思う私の頭は、もうイカレテいるのか。




「誰を?」




かがんだ大将殿の肩越しに見える彼は、直視出来たものでは無い。
それでも私は、目が離せなかった。

そんな、




「ここにいるヤツ等全員」




嫉妬してるみたいな顔。




「おー、怖」



この人の声には緊張なんて欠片も無く、イヤに和んでしまうな…などと思っていると、大将殿はそのまま私を抱えてヒョイとカウンターを乗り越えるとその下に。

何事かと思えばギュッと思いっ切り抱き締められ、何も見えないうえに何も聞こえなくなった。


 
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