Doflamingo
□骨も残さず
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私はしがない下っ端三等海兵。
日々廊下のモップがけや窓拭き、厳しい訓練の後モップがけに窓拭き…
今日も今日とて同じ様に窓拭きををしている。海軍本部中将大参謀つる様のお部屋の窓を。
(傷付けたらクビ傷付けたらクビ傷付けたらクビ…むしろ本当に首が、飛ぶ…)
ひぃぃ…!
何故、こんな事になったかと言えば…
「名無しさん!」
「ひぃぃぃぃ!!!」
「フフフッ、折角ならもっとイイ声で鳴けよ」
今、私を後ろからはがいじめにしていらっしゃる、王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴ様が理由。
「し、失礼致しました…!ド、」
「“ド”?」
「……、ドフラミンゴ、さん…」
「フフ、呼び捨てでいいって言っただろ?そんなに“お仕置”されたいか?」
「!…、そ、そんな…!」
「フフフフッ冗談だ。しかし顔を赤らめて、一体どんな“お仕置”を想像したんだ?」
「――!!!…し、仕事がありますので失礼致します…!」
「フフッフフフフ…」
ほんの数日前までは、海軍本部の“雑用係”として働かせてもらっていた身だった。
しかしその日にあった世界会議の準備に人手が足りないと担ぎ出されたのがそもそもの理由…
そこで予定よりも幾分早くあのドンキホーテ・ドフラミンゴ様がいらっしゃったがために、私は退出するタイミングを失ってしまった。
少しお手伝いをしたら帰ってまた訓練やら掃除やらをするはずだったのに、またとんでもない事に私はドフラミンゴ様に“愛して頂ける”事になった。
それからがまた大変で、呼び出しても来ないあのドフラミンゴ様が、呼んでもいないのに毎日本部へおもむいては、わざわざ私の所に足を運んで下さる様になった。
そこでドフラミンゴ様は、ベタベタに私を甘やかして下さるのだ…
掃除をしていれば…
『雑巾なんてかけてたら手が荒れるぞ。誰かにやらせろ』
『高い所に上るな。落ちたらどうする』
訓練をしていれば…
『フフ、名無しさんに傷一つ付けてみろ。たらふく海の水を飲ましてやる』
しまいには…
『フフフッ、俺から1m以上離れるな』
周囲の人にかける迷惑……プレッシャー被害の甚大さに、苦肉の策として大参謀殿の周辺のお世話をさせていただく事になったのだ。
「はぁ……」
「だいぶ疲れている様だな」
「はは、少し気疲れといいますか………ジュ、ジュラキュール・ミホーク様…!?」
音もなかった廊下に現れたのは、こちらも王下七武海、ジュラキュール・ミホーク様。
「た、大変失礼致しました…!」
「いや、ドフラミンゴなんぞ相手にしていれば、それは疲れる」
「い、いえ!決して…そう言う訳では…」
「そうか?赤髪が勝手に言い付けてきた噂だが、お前はアイツに無理矢理めとられたのだろう?」
「めと…!いえ、そこまでは…!、それに……」
「?」
「…無理矢理に、と言う訳でも……」
「ほぅ?そうなのか」
「え…!あ、いえ、何でも御座いません。
あの、ところでどなたかにご用事で…?」
「ん、あぁ、そうだった。邪魔をした」
「いえ!こちらこそ失礼致しました」
その背中が見えなくなると、張り詰めていた糸が切れ、思わずその場に座り込んでしまった。
ドフラミンゴ様といいミホーク様も、やはり流石は王下七武海。そのオーラに当てられてしまう自分は、本当にまだまだ若輩者なのだ…
しかし…“赤髪”と言えばやはりあの四皇、赤髪のシャンクス様の事なのだろう…
そんな所にまで話しが及んでいるだなんて……
「フフフッ、こんな所に素敵な落とし物が落ちてるなァ」
「うわぁっ…!、ドフラミンゴ…さん!」
体がヒョイと持ち上げられ、クルリと反転させられると目の前には一面、ドフラミンゴ様のお顔。
「フフ、どうした?疲れたのか?」
「いえ…大丈夫です。…少しつまずいてしまって」
「そうか」
あぁ、また。
ドフラミンゴ様の指が私の顎を捕らえ頬を伝い、瞼に触れ、唇をなぞり…
頬に口付ける。
「おつるさんが呼んでたぞ」
「えっ…!あ、はい!わざわざすいません。それでは…」
失礼致します。と言い切る前にフワリと浮いた体。
「!!、ドフラミンゴ、さん…!?」
「フフフッそう、わざわざ“迎えに”来たんだ」
「と、とは言えど、これは…」
お姫様抱っこ…
「それに落ちてた物を拾ったんだ。扱いは俺の好きにしていいはずだろ?」
「うっ……」
結局そうやって、ドフラミンゴ様の好きに甘やかされている私…
―――――
「連れて来たぜ」
結局そのまま広間に行けば、開口一番大参謀殿の溜め息が…
「名無しさん、悪いけどお茶を淹れてくれるかい?2人分ね。また珍しい奴が来とるもんで」
ふと大参謀殿が目配せした方をうかがえば、
「ミホーク様…!」
「また会ったな」
「は、はい……あの、ミホーク様はコーヒーで?」
「あぁ、頼む」
確かに、七武海がマリージョアにわざわざおもむくのなら、用があるのは元帥殿や大参謀殿であろう。
お茶とコーヒーをそれぞれ注ぎながら、やっぱりドフラミンゴ様は異例中の異例なのだと再認した。
「フフ、確かに。どう言う風の吹き回しだ?鷹の目」
「なに、あのドンキホーテ・ドフラミンゴがとある女に骨抜きだと聞いてな。どんなものか見に来てみたのだが…」
「失礼致します」
大参謀殿のにはお茶を、お二人の前にはコーヒーを置いて下がろうとしたのだが…
「予想以上だった」
不思議な言葉と共にミホーク様に腕を引かれ、そのまま倒れこんでしまった。
何が起きたのかと顔を上げれば、不敵に笑うミホーク様と、そのミホーク様の胸倉を掴んでいるドフラミンゴ様…その間でミホーク様の膝に転がる私……
「ソイツを離せ」
「“嫌だ”と言ったら…?」
こんな表情のドフラミンゴ様は、初めて見る。
「“好きだ”と、言われた事は無いのだろう?」
「…」
「ならば、俺のモノにしたとて―」
「あの…!」
「なんだ?」
「好きです」
「!」
「私、ドフラミンゴさんの事好きです」
…何て、タイミングでこんな…
でも自惚れで無ければ、これは私の事なわけなのだから……
「ちゃんと、申上げる機会が無かったのですが…、好きです」
誤解されていては困る。
「フフッフフフフ、フフフッどうせならそれは、ここで囁いてくれよ」
ヒョイと持ち上げられた体は、そのままドフラミンゴ様の膝の上へ。