Doflamingo
□その名前ごと食べてしまいたい
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呼び出しをうけたからと言うより、暇潰しがてら足を向けたマリージョア。
いつもの広間に通され、どっかりとソファーに腰掛けた。
もう見慣れた…むしろ見飽きた部屋をぐるりと見渡してみれば、見慣れた海兵の服を着込んではいるが、見慣れない女がいた。
「おや、あんたがこんなに早く来るだなんて、珍しい事もあるもんだね。ドフラミンゴ」
「フフフッ」
大参謀が現れると、場の空気は更に引き締まった。
女も帽子を目深に被り敬礼している。
「楽にして構わないよ」
大参謀がそう手をかざせば、その通り海兵達は敬礼を解く。
全く、立派に躾がされている。
「他には?」
「呼んではあるが、来るかどうか…」
自由な奴等ばかりだから…と溜め息をつく様は実に年寄り臭い。
「フフフ、おれの顔に何か付いてるか?」
「…!、ぃ、いえ」
誰に問うたと言った訳でもないのに、その女が弾かれた様に声をあげた。
咄嗟に返してしまう程の自覚があって、おれを見ていたのだ。
「フフフッ、じゃあそんなに睨み付けるなよ。え?」
気怠く立ち上がれば、空気が一気に引きつるのが分かった。
ゆるりと女の元に足を踏み出せば、大参謀殿が顔をしかめたのが分かり、手をヒラヒラとさせた。
流石は大参謀、それをちゃんと“ただの暇潰しだ”と読み取ったのだろう、また溜め息をついた。
女の前まで行けば、帽子を目深に被った頭を更に俯かせ、いたたまれない。というように小さい体を更に縮めている。
「おれの顔が気に食わないか?」
「そ、んな…!…、滅相もありません」
「フフ、じゃあ、何がそんなに気になっておれを見てたんだ?」
「、……」
この女が俺を凝視していたのは事実だが、理由など興味は無い。
恐れおののき視線を逸らす者。果ては、畏怖の念の末に視線を逸らすのさえままならない者。
おれの事を、見るも見ないもそいつの自由。
さして興味が無いのは勿論、怒りを感じてなど、こっれっぽちもいない。
そんな者が視界に入るのさえ珍しいから。
ただ、こうして暇を潰すのが、好きなのだ。
「なァ?、あのアツイ視線は、どういう意味だ?」
震える女の顔を捕らえ無理矢理にうわ向けさせ、その目を同じ様に熟視してやろうとした。
「――…!」
その白い肌は、耳まで薔薇色。
人差し指でやんわり頬を撫ぜてやると、ビクリと身体を震わせた。
形の良い唇はきゅっと結ばれ、今にも泣き出しそうな程潤んだ目で俺を見上げる。
両の手でその顔を包み込み、その形の良い唇を撫ぜ、涙が零れんばかりの目元に触れ、
「お前を愛してやる」
薔薇色の頬に口付けた。
そしてより一層、全身まで赤く染めあがった女を抱え上げる。
「フフッ、フフフフ、“同意済み”なんだ。文句はねぇよなァ?おつるさん」
「はぁ…」
「フフフッ、溜め息ばっかついてると幸せが逃げるぜ?」
誰のせいだ。なんて小言は耳に入らず、高揚仕切ったこの気分はキッチリ口角に反映されている。
極上に良い気分の中、この見飽きた部屋を後にした。
「………、ぁ、の…」
「……」
「…あの、ドンキホーテ、様…」
すとんと床に降ろして、顔を突き合わせる。
「ツレねェ呼び方するなよ。恋人同士だろ?」
「、……こ…!!!」
「フフ、そう。『こいびと』だ」
そしてこの言葉に酔い痴れてるのは、おれだ。
恐れおののき視線を逸らす者。果ては、畏怖の念の末に視線を逸らすのさえままならない者。
でも、頬を紅潮させて見つめる奴は、初めてだ。
「フフフッ!肝心な事を忘れてた」
「…?」
跪いてその手の甲に口付ける。
「愛しいきみよ、お名前を…」
「っ、えぇ…!ふ…ぅわぁ、あっ、そんな、いや、えっ…と………名無しさん…と、言い…ます。…ドフラミンゴ、さん」
あぁ…もう、
その名前ごと食べてしまいたい
((あ、あ、ああ…あの王下七武海を“さん”づけ。し、しかも、ただの…下っ端海兵のわ、私が…というか……こ、こここここここい))
(フフッ、お前は何にも考えずに、おれに愛されてればいいんだよ)
(!!(色々と心臓が持ちません、大参謀殿…!))