Doflamingo
□3度目であなたは振り向く
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「ドフラミンゴ」
彼女の選びとる言葉の中で、唯一異彩を放つ言葉。
「ドフラミンゴ」
彼女という存在には、決して似つかわしくない男の名。
「ドフラミンゴ」
「あァ?」
何故彼女がその名を呼ばねばならないのか。
それはこの男が、それだけでとろける程の喜びを得られるから。
「どうした?」
「ドフラミンゴ、私、今日は家を空けます」
「どっか行くのか」
「えぇ。あと、明日は帰りません」
「ほぉ、珍しいな。泊まりか」
「えぇ。因みに、その次の日も帰りません」
彼女の用意した、それは美味であろう昼食とコーヒー。
愛しい人の口から今4度も自分の名を聞いて、まるで弧の端と端がくっつくのでは、という程つり上がった男の頬が通常の位置に戻る。
いや、通常より少し低いかもしれない。
「3泊4日って話じゃねぇんだろうな」
「えぇ。その次の次の日も帰りません」
「我慢ならなくなったか」
男は彼女が丹精込めて作った昼食を早く口に運びたかったが、こらえてミルクを注いだコーヒーをスプーンでクルクルと回した。
「だがお前は咎めなかった」
怒られなければ悪さをしてもいい。だなんて、まるでガキだ。
「ドフラミンゴ。ドフラミンゴ、私はあなたを愛しています」
男の口角が元の位置に戻る。
彼女はたった一言で、この大男をグラグラに揺さぶる事が出来る。
果ては地に平伏させる事も、世界の頂点へのしあげる事も可能だろう。
「こんなにも愛しく胸焦がれるのは、ドフラミンゴ、あなただからです」
それでもこの男の運の尽きは、そんな力を持った彼女に、自身がそれ程まで影響されているとは気付きもしていないという事だ。
「だから、あなたが“あなたらしく”いられなくては、意味がありません。
“あなたらしさ”を好きになった私が、その“あなたらしさ”に耐えられなくなったからと言ってあなたを咎めるのは、理不尽なのです」
男はクルクルとコーヒーをかき混ぜ続けている。
「今日のお夕飯は手塩にかけて作りますよ。ドフラミンゴ、あなたの好きなものをみんな作りましょうか」
「フフ、まだ昼も食ってねぇってのに。気のはぇこった」
「あら、そうですね」
クスリと笑う仕草でさえ、愛しい。
男はコーヒーをかき混ぜるのをやめた。
「名無しさん」
「なんでしょう」
男が手招く。
素直に近付く彼女の腕を引き、自分の腕に閉じ込めた。
「名前を呼んでくれ」
「ドフラミンゴ」
男は彼女の肩口に顔を埋め、
「ドフラミンゴ」
その肺にためておけるだけいっぱい、彼女の匂いを吸い込む。
「ドフラミンゴ」
「名無しさん、」
「はい」
「どうしたら、帰ってくる」
その声の弱々しさは、くぐもった声音のせいだろうか。
「そうですね……“良い子”にしていたら、寄り道せず帰って来ますよ」
「“良い子”?」
「えぇ。一週間良い子にしていられたら、帰ってきますよ」
自身の腹部に巻き付く男の腕を、彼女は優しく撫ぜる。
はじめから穏やかな調子であるが、今彼女の様相はこと穏やかだ。
「あなたの周りには、いつも沢山の綺麗な女性がいるけれど、私知っているんですよ」
彼女の言葉の意図を理解しきれず、少し頭をもたげた男の髪を撫ぜ、頬をよせる。
「私と一緒になってからは、その誰とも寝所を共にしてはいない事」
そしてこめかみに唇をよせ、ゼロ距離で一際甘く、囁く、
「たまらなく、愛してるわ。ドフラミンゴ」
全てが“本能”で成り立つ男の頭では理解出来ないが、体はその甘く香しい囁きに瞬時に反応する。
彼女を組み敷男の口は、弧を描く。
「明日から一週間、旧友のいる島へ友達と行こうという事になりまして。男の人もいるんですが、行ってもいいですか?」
「フフ…、クフフフ……アハハハッ!」
「遠回しな言い方をしてごめんなさい。でも、普通に言っても許可して下さらないでしょう?」
「フフ、あァ。俺が野郎をぶち殺さない限り、許さねぇなぁ」
「ね、私の大切な友達ですから、それは困ると思いまして。
そうしないでも、行かせてくれますか?」
「クフフフ…あァ、いいさ」
今度は男がゼロ距離で甘く、囁く、
「明日、起き上がれたらな」