mihawku

□若き大女優“鷹”にさらわれる
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ミミズだ、私はミミズだ。

それも、凄く立派な威厳のあるミミズだと思って頂きたい。


時にはオスにもメスにもなり、頭を千切られたってそこから再生して増殖する。
土はきれいにするし、コンパクト!ただ少々見た目がグロテスクなだけで、なんて素晴らしい生き物なんだミミズ…!

しかしそんなミミズには天敵だらけ…例えば今何故か私前に仁王立ちしているこの…



「なんだ?」

「それはこちらの台詞です。鷹の目さん」



そう、この“鷹”



「何の御用でしょうか?わざわざ偉大なる航路を逆走してこんな所まで」

「なに、お前が“ミミズ”だったとは知らなかったからな。確認しに来た」



馬鹿だ。

コイツは“鷹”じゃない“ウマ”と“シカ”だったんだ。



「あぁ、何処かで新聞をお読みになられたんですね」



私はこれでもちょっと名の知れた役者をしている。
それで新聞の取材を受け、コラムの様な物を書かせて頂いた。
そこで自分にとってのお芝居や役者について「私は“ミミズ”になりたいんです」と綴った。

役によって時には男にも女にもなり、どんなに叩かれたってへこたれないで、そこから2倍にも3倍にも成長していく。
そんな一癖も二癖もある役者を“ミミズ”と例えたのだ。

でもだからと言って



「“私がミミズだ”と言った訳ではありません。
残念ですが生身の私では男になったり女になったり出来ませんし、頭を千切られたら即死します」

「そうだな。確かに見た目はグロテスクでは無いな。“人並み”だが」



分かってはいたけど改めて認識したわ。

大っ嫌いだコイツ…!



「お分かり頂けましたか?ではそろそろお戻りになられた方が宜しいのでは」



“海があなた様を呼んでいますよ。”と皮肉たっっっぷりに、それも満面の笑みで言ってやった。
さっさと帰れウマシカ男め。



「しかし“ミミズ”の天敵は“鷹”なのだろう?」

「…会話が繋がりませんわ、鷹の目さん」

「そしてお前は俺を“鷹の目”と呼ぶ」

「はぁ…、そうですが何か?」

「ならば俺はお前の天敵か?」



久し振りに現れて、珍しくよく喋ると思えば…



「だとしたら、どうだと?」



そこに、“鷹”が一番嫌いな生き物だと書いてやった。



「“鷹”は肉食だから“ミミズ”ばかり食べている訳では無いと思うが?」

「そうでしょうね。でも一番嫌な敵です」


 
その容姿に魅せられて、その目に取り付かれ、実を滅ぼした者は数知れず。



「“鷹”は嫌いか?」

「えぇ。ミミズを持て遊んでは頭を食い千切り、生殺しにして置き去りにする。

最低だわ」




この男は言った“お前の中身に興味がある”と。
役の隙間から垣間見える“本物の私”をもっと知りたい、と。




「それなら一思いに、犬にでも踏みつぶされた方がマシです」




次に来る時は、“本物のお前を連れて行く”と。




「そうか、俺はお前を愛してるんだが」




散々待たせておいて、




「私は嫌いです」

「俺は愛してる」

「嫌い」

「愛してる」


「……“人並み”だとか、言ったくせに」

「俺が認めた女はお前しかいない。だからお前以外の基準を知らない」



だから“人並み”



「つまり今のところ“最高”と言う事ですか」

「いや、これから先も変わらない」

「鷹の目に見初められたって嬉しくありません」

「嬉しくないか?」

「えぇ」



今更。



「“次に来る時は、本物のお前を連れて行く”」

「!」

「だからお前はここにいるのだろう?世界をまたに駆ける大女優が」



こんなしがない町に。



「“鷹”のくせに、遅いのよ」

「待たせたな」

「本当、明日の一面は決まりね」







若き大女優“鷹”にさらわれる




(それにしたって、もとマシな嘘つけなかったの?)
(嘘ではない。愛した女がミミズだったのでは形無しだからな)
(はぁ…このウマシカ男)
(ウマ…?)
(“馬鹿男”って事よ)
(随分な物言いだな)
(いいじゃない。“鷹”は嫌いだけど“ウマ”と“シカ”なら大好きよ)
(フッ、そうか。なら俺は馬鹿な男でいよう)


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