smoker
□カメの甲羅とキミの好き
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「おい、たしぎ。何だこれは」
「“カメ”です!」
「それは見れば分かる。何でお前はこんな所で“カメ”に跨がってるんだ」
しかも馬鹿デカイ。と付け足した様に、たしぎを背中に乗せていてもビクともしない、堂々たる風格がある。
そんな風格ある“カメ”が何故執務室にいるのか…
「それが、この子“落とし物”でして…」
「“落とし物”…?」
部下である名無しさんの言葉に眉間の皺を深くするスモーカー。
こんなデカイ“カメ”を落とすのか?と言うか持てるのか…?
だとしたって何故ここにいるのか…
「この子、指定保護のある珍しいウミガメの仲間なんです。それが傷付いていまして、ローグタウンに流れ着いたみたいなんですが…」
「肉食なんですよこのカメさん…!」
「それでか」
名無しさんの説明に被せたたしぎの言葉に、なるほどと頷く。
カメと言えど傷付いた肉食獣。一般人の手におえるはずも無く、回って来たものか。
面倒事には慣れっこだが、スモーカーには一つ疑問に思う事が。
「しかし、何でお前は無事なんだ」
カメに跨るたしぎを訝しげに見る。
「あ、これですか?実はこのカメさん、名無しさんさんに恋しちゃったんです!」
「あ゛?」
「た、たしぎさん…!ち、違います、手当てをしたら少し懐かれてしまって…」
「でも最初だって、誰も手がつけられなかったのに名無しさんさんは触れられたんですよ!
あ、そうだ見ていて下さいスモーカーさん」
たしぎはそう言うと名無しさんにいくらか距離をとる様指示をした。
「カメさんGO!」
意気揚々とした謎の掛け声と共に、微動だにしなかったカメがのそりと動き出した。
見れば名無しさんの方へ一直線に歩いて行く。
そのまま名無しさんの足元まで行くと、またピタリと動きをやめた。
「ね!凄いですよね。名無しさんさんのいる方へとついて行くんですよ」
パッと立ち上がると、たしぎは名無しさんの手を引きカメの上に座らせた。
「名無しさんさんアレを」
「あぁ、はい」
“アレ”とたしぎに促された名無しさんは指でカメの甲羅をなぞり出した。
「何してんだ」
「カメは甲羅の溝をなぞられると、とても気持ちがいいと前に聞きまして」
「コレが決め手ですっかり名無しさんさんに懐いてしまったんです。ね?カメさん」
たしぎがそんな風に声を掛けると、カメは首だけスモーカーの方へ向け、ニヤリと笑った。
「…笑いやがったこのカメ」
「そうなんです。可愛いですよね」
ニヒルな笑みを浮かべたカメとは反対に、これ以上無いと言う程眉根を寄せ顔をしかめるスモーカー。そしてニコニコと甲羅をなぞる名無しさん。
「たしぎ曹長!その“カメ”の事で連絡が…」
「あ、はい!」
何だこの面白くない感覚は。
パタパタと走り去って行ったたしぎの足音を背に、スモーカーは全身にに“不愉快”を露にする。
ふと、名無しさんと目が合った。
「ふふっ」
「何笑ってやがる」
「すいません、…先程たしぎさんと、この子は大佐に似ている。とお話ししていまして…」
“カメ”に似ている。これは決して褒め言葉とは受け取りにくい。
ましてやこんなニヒルに笑うカメと一緒にされるだなんて…
「確かにこの素直じゃ無い笑い方とか、そっくりだな…と」
「…」
「それにどっしりして頼りがいのある所とか、威厳と風格に満ちた感じとか、似ていると思うのですが…」
たしぎならば、例え褒めたつもりでも2、3言は怒鳴り散らされていた所だが、さすが。
自然とスモーカーの眉間の皺は元に戻っている。
「あ、……クスッ…ふふ…!」
「何だよ」
「…たしぎさんが言っていたんです“甲羅が大佐の腹筋みたいだ”って」
カメの甲羅の山は一つ一つ年輪の様に、歳を追うごとに成長して行く。
このカメは相当長く生きているのだろう。ひとつひとつ立派な甲羅をしている。
クスリと笑いながら名無しさんはまた指の先で甲羅の溝をなぞり出した。
「名無しさん」
「はい?、わぁっ…!」
スモーカーは名無しさんの体をヒョイと持ち上げ、自らはソファーの上に座るとその膝の上に名無しさんを乗せた。
「スモーカー、大佐…?」
「ならおれにもしてくれよ」
「?」
「そいつと同じ様に、ここもその指で撫ぜてくれよ」
スモーカーは名無しさんの手を取ると、自らの鍛えぬかれた腹筋に当てがった。
「なっ…!」
「ほら、こうの方がいいか?」
ふとスモーカーは向きを変え、ソファーに寝転び肘掛けに頭を乗せて名無しさんを見上げる。
「いい眺めだ」
自分の体を跨ぎ、真っ赤な名無しさんの顔を見上げるその位置は、確かに彼にとっては堪らない。