kid

□男の恥でもジェントルメン
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「おいキラー、名無しさんのヤツはまだ寝てんのか」

「あぁ。…だが今日は寝かしておいてやったらどうだ。何せこの天気だからな」




明らかにイライラとした様相の“キャプテン”キッド。
しかしそんな事には慣れっこなのか、キラーは何食わぬ様子で答える。




「?、天気に何の関係があんだ」

「なんだキッド、知らないのか」

「あ…?」

「まぁ、様子を見に行ってやるといい」




キラーは知っていて自分は知らない。それがやけに不愉快だったのか、いつにも増してしかめっ面のキッド。


名無しさんの部屋の前に着くと、ノックも無しにその扉を開けた。




「おい、名無しさん」

「あ、お頭…」




八つ当たりの様な小言をもらしそうになったキッドだが、グッタリとした様子でベッドに腰掛けては壁にもたれかかる彼女の姿に、そんな言葉は引っ込んだ。




「どうした」

「いえ、ちょっとした頭痛が…」

「頭痛?」

「えぇ、言わば“偏頭痛”という様なものです。天気が悪いとどうも…」




そう力無く笑う姿が何とも痛ましい。




「お前……なんで今まで黙ってた」
 
「いえ、少しじっとしていれば治まるものですから、わざわざお頭が気にかけて下さる事じゃないですよ」

「バカヤロウ」




そっとベッドに腰掛けて悪態をつくキッドだが、それはある種自分に対する言葉。
そんなことにも気付けなかった自分への叱責。




「すいません」

「…寝とかなくていいのか」

「えぇ、壁の方が冷たくて気持ちがいいんです。それに、敵襲にすぐ対応出来ますし」




その体質ならば、この不安な海を旅するのは辛かったであろう。それが彼女は今まで一度もそんな様相を見せなかった。
しかしここへ来て初めて見せる姿。それはかなりの無理と疲労のあらわれ。


不意にその頬へ手をあてがうキッド。




「お頭の手……冷たくて気持ちいいです…。少し楽になります」

「そいつはよかったな」

「ありがとうござ……っクシュン!」

「なんだよ、今度はさみぃのか」

「あれ…?す、すいません」




すると、今度はその身体ごと抱きよせ自分の腕におさめた。




「………温かい」

「なら暫くこうしてろ」

「ありがとうございます」




はだけた胸に頬をよせ、キュッとキッドの服を掴む手。
普段こんな風に甘える事のない名無しさんの珍しい姿。

柔らかく白い頬は僅かに桃色に染まり、キッドの胸にぴたりとくっついている。力無くしなだれかかるその身体を更に抱きよせれば、トクトクと小さな鼓動が感じてとれる。そしてとろんとした声で…



「お頭…」



と呼ばれると、少しばかり……いや、かなりやましい気持ちも生まれるが、今はそんな場合ではない。

しかし、少しくらいなら…こんな機会は滅多に無いし……
と渦巻く欲望に敵わずに彼女の身体を抱え上げると、そのままベッドに横たえる。



「おかしら…?」



少しまどろんでいた名無しさんの目があき、自分を見下ろすキッドを不思議そうに見つめる。




「、おかしら…!」




すると名無しさんはキッドが離れてしまうと思ったのか、キッドを求める様に手を伸ばし、その首に絡める。




「!……名無しさん」




そこらの男なんかより強くて凛々しいが、争いは好まず少し怖がり。

いつもキッチリとしてスキがないように見せているが、たまに抜けていて、照れた様にはにかむ顔が堪らなく可愛らしい。

いつも一生懸命に動き回るその姿は、キッドの心を捕らえるのに十分だった。



 
「名無しさん」




甘くその名を囁いて、柔らかな唇に口づける。
ただ合わせるだけの口づけは、だんだんと深くなり、角度を変え、深さを変え、舌を絡め、名無しさんの身体まで翻弄していく。

存分に味わってもなお、名残惜し気に2人を繋ぐ銀糸。




「はぁ…、名無しさん…」




その唇は予想以上に柔らかく、その身体は予想以上に熱をもち、予想以上に、自分は名無しさんを欲していたのだと悟った。

少しだけ……そんな甘い考えで手を出したのがまずかった。このまま引き下がれる訳が無い。

綺麗なピンク色に染まった頬、うっすらと開いた唇は先程の唾液でテラテラと妖しく光っている。
白い肌は頬と同じ様に薔薇色で、潤んだ目に乱れた呼吸…何より異常なまで熱を持つこの身体が……




「お前まさか…!」




ハッと我に返ったキッドが名無しさんの額に手をやれば、異常なまでに熱い。




「お前これ、風邪だろ…!」

「……?」




考えてみればおかしい事ばかりだ。この超絶恥ずかしがり屋の名無しさんが抵抗ひとつせずされるがまま…
むしろ自ら甘えるなんて有り得ない…!

早速医者にみせなくては、とベッドを後にしようとした時、グッと掴まれる腕。




「や、おかしら、そばにいてくださ…ギュッてして、もっと……もっとおかしらが、欲しいのです」

「――!!!!!」




そこまで言われて男としてこんな据膳食わぬ訳には…




「ってやっぱ駄目だろ…!キラー!医者ァー!!」








男の恥でもジェントルメン




(キッドが気付いたからよかったものの、自分の体調変化くらい自分で気付け名無しさん)
(す、すいませんキラーさん…)
(で、なんで今度はキッドが風邪をひいているんだ)
(いや、それはその……いや、おれは悪くない。むしろ誇れる…!)
(?)





 

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