kid
□好きです、好きです
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「…私の青春は…終わったのです……」
「えっ!名無しさん、フられたの!?」
「!!、こ、声が大きいですナミさんーっ!」
そうだ、声がデカ過ぎるんだこの銭ゲバ女が…
「あ、ごめんごめん。えっ、つか何アンタ、告白したの?」
「そんな!恐れ多い事は…!」
「そうよねー、名無しさんがそんな大それた事出来る訳無いわよねー」
そうだ、彼女がそんな大胆な行動に出るはずか無い…
じゃあなんだ?どう言う事だ?あれか、守銭奴ミカン頭の早とちりか?ああそうだ、そうに違いない。あのバカ女め、可愛くないおっちょこちょいしやが…
「思い告げずして夢やぶれたり…です……」
………
「キッド、牛乳がお前の握力によって噴出しているぞ」
「え、何、それはつまり…」
「好きな方が、いるみたいで……」
誰だ…!彼女の好意に気付きもせず他の女にうつつを抜かしてる糞野郎は!
…つか、…好きな奴、いたのか……
「牛乳…」
隣りで友人のキラーが何か言っていた気がしたがおれの頭には入ってこず、ただひたすらに、教室の隅で囁かれる愛しい女の失恋話しに耳を傾けていた。
「いや、そう言う意味じゃ…まぁいいわ。それで、誰なの?アイツの好きな奴って」
「多分…C組のボニーさん、だと……」
しかも、よりにもよってあの大食らい凶暴女のジュエリー・ボニーかよ!
どんだけ見る目ねェアホなんだよそいつ。
「あー…、や、あれは違うんじゃない?何と言うか…腐れ縁?」
「でも、あんな風におしゃべりした事、私はありません……」
「“おしゃべり”っつーか言い争いでしょ、あれは」
「…それでも……、ボニーさんが羨ましい、です……。
一緒にいれるだけで、凄く幸せになれるから」
あぁ、なんていじらしいのだろう。
こんなふうに一途に思いをよせられたら、どれだけ幸福か…
思い描くだけで、そんな幸せ者を殴り飛ばしてはぎったぎたのめっためたにやりたくてもう………
「なぁキッド、中身は出切ったから離してやったらどうだ、牛乳」
………
「それに私、凄く嫌われている気がして…」
「嫌われてる?何で」
「目が合ったら直ぐに逸らされてしまうし、話しかけても最近は『あぁ、』とか『おぉ、』とかしか言ってくれないし……
それにこの間なんかは、肩に付いていたゴミを取ろうとしたら凄いびっくりさせてしまって、とても怒られたんです…」
最低だ…!
何てヤツなんだ……本当にこれは一発…どころじゃなく最果てまでぶっ飛ばしてやらなきゃ気がおさまらねェ。
ぜってェに突き止めてそりゃもう再起不能に…
「キッド君」
………
ふと隣りのキラーを見れば、奴は黙々とおれが机にぶちまけた牛乳を拭いていた。
「はぁ……、好きな人とか、いるのでしょうか…キッド君」
「おい」
「ひぃっ!!!、っ、え、あ…!!ユ、ユース、タス君…?!」
「………」
「どう、したんですか?
あ、牛乳パックが…」
「今おれの名前呼んだろ」
「!!!、……えっ、い、や、…呼んで無い…です、よ…?」
「いや、呼んだ」
「…やっ、え、と…………あっ!はい、そういえば言いました。『ユースタスく…
「違ェ!『キッド』っつたろ!」
「…!……っ………す、いません……勝手に、慣れなれしく、名前なんか、呼んで…しまって…本当に……」
もう…、と見る間に萎縮する彼女の目に溜まっていく涙が見え、ふと我にかえる。
「や、あ、その、別にそれは、構わねェっつーか、むしろ呼んでもらいたいっつーか…」
「……え?」
「っ…!!!い、いや、何でもねェ…!」
スパコーン!
何を口走ってんだおれは…と正気に戻ってもう自分の席に戻ろうとしたら、正気も失う様な衝撃が頭に響いた。
と思ったら、おれの手の中にあったはずの牛乳パックが窓の外に消えていった。
「ってェ…!何しやがんだこの銭ゲバみかんオンナァ…!!」
「うるっさいわね。時代遅れのヤンキーみたいな格好して。そんな言葉使いしてると嫌われるわよ」
「っ…!!」
このアマぜってェいつか泣かしてやる…!
「どうでもいいけどさっさと拾って来なさいよ、あんたの牛乳パック」
「はァ!?お前が投げ捨てたんだろうが、何で俺が行かなきゃならねェ…」
「名無しさんいっといで!」
「は、はいっ…!」
「えェ!?、何でアイツが行くんだよ」
「あの子は柔順だからね。命令されたら思わず動いちゃうのよ。
それにしてもいいの?好きな女に自分の捨てたゴミ拾いに行かせて」
「そんなのいいわけ、はァァァっ!??!?っ、……なっ、…お、し、…」
「『なんで、おまえ、しってんだよ』って?
そんなのあんたら見てれば幼稚園児だって分かるわ!互いに頬染めていじらしいったらありゃしない。いじらし過ぎて見てる方はイライラするくらいよ。
まぁ、とにかく早く行ったら?あんな可愛い子が1人でフラフラしてたら直ぐに連れてかれちゃうわよ?」
いいの?なんて言いやがるみかん女の顔にハラワタがむず痒くなったが、そんな事に構っている場合じゃなかった。
「んなの、いいわけねェだろ!」
「ふぅ、本当に世話のやけること。
“思い告げずして夢やぶれたり”って事は…」