crocodile

□例えばね、愛を語るなら その指で、
1ページ/1ページ


「何をしている」




至極不思議そうに、クロコダイルは私の行動を見つめる。

彼が不思議に思うのも無理は無い。




「箱庭です」

「“ハコニワ”…?」




小さな箱に敷き詰めた砂に手をうずめ、私は答える。




「一種の、心理テストの様なものです。この砂を敷き詰めた箱の中に、好きなものを置いて世界を作るんです。その物や配置から、その人の精神状態がわかるんですよ」

「ほぅ…」

「でも一番はじめに、砂に触れた反応でわかるんです。この砂のヒンヤリとした感触を気持ちいいと思うか、不快に思うかで」




砂を両の手ですくっては、砂時計の様に少しずつ隙間からこぼしてみる。




「気持ちいいと感じれば正常で、不快と感じれば心の何処かに何かあるという事になります」




全て落した砂の中に、また手をうずめる。




「お前は」

「?」

「お前はこの砂を気持ちいいと感じるのか、不快と感じるのか」




クロコダイルは砂を一つまみ掴むと、サラサラと落としていく。




「私は……凄く、気持ちいいですよ。この中に、“砂”以外は要らないくらい」



 
フワリと身体が持ち上がり、ベッドへ横たえられる。

横たえた本人は私の上に覆い被さると、その姿を砂へ変えた。

身じろぎすれば、サラサラしながらも身体へ絡み付き、服の中にも進入して来る砂。




「気持ちいいか?」




全身に絡み付く砂。指1本までクロコダイルに支配される身体。




「ふふっ…これを気持ちいいと思う私は、ある意味精神異常者かもしれません」

「ハッ、良い事だ」




服の中に進入した砂が、形を成す。
それは手となり私の身体を這い回る。




「しかし私はこの城の医師。それでは困ります」

「おれは困らねェ。むしろ歓迎だ」




私の言葉など意に介さず、といった様子で身体の上を滑る手。




「そういう気分ならば、他に適したお相手がいらっしゃいますでしょう?」




服の上から、中を這うその手を押し止どめる。




「お前がいいんだよ」

「…あなた様に抱かれたが最後、私はこの舌を自ら噛み切らねばなりません」




眉根をよせるクロコダイル。その身体は既に人の形を成し、私の身体にのしかかっている。




「どう言う事だ」
 
「私の実家は代々優秀な医師を輩出しております名家、それ故世間体に敏感でして。王下七武海の専属医を勤めるのは誇りでも、抱かれてしまえば話は別」




押し止どめた手を指でなぞれば、ゴツゴツとした指輪の感触が感じてとれる。




「“海賊の愛人”など一族の恥。その名に泥を塗った者は自らその身を清め、罪を償わねばならないのです」




くだらないプライドだと思うけれど、人が“墜ちる”のは実に簡単な事。
墜ちたが最後、這い上がる事は不可能。


ふとクロコダイルの手が、また身体を這い回る。
彼にとって私の命など、とるに足らないもの。
しかし、彼に抱かれて最後を迎えるのも、まぁいいかもしれない。それくらいの方が、清々する。


腹を滑っていた手が、ふいに頬を撫ぜる。そこから自らの指に絡めた私の髪を梳く。絡めては梳き、絡めては梳き…何度と無く繰り返す。




「おれはお前を抱く。何度も、何度も、お前が嫌だと言っても抱いてやる」




どんなに愛しても、彼は愛など信じない。それでも、そんな事を囁いてしまいたくなる私は…

身体を奪われなくとも、心を奪われたこの身はもうきっと他では生きて行けない。

それなら彼に抱かれて、全てを終わらせてしまうのが、一番いい。




「一族に顔向け出来ませんね」
 
「フッ、お前の帰る場所はおれの腕の中だけだ」




その指に私の髪を絡めては梳く…彼はただその動作を繰り返す。

サラサラと彼の指を滑り落ちる髪はまるで、砂の様。



私は逞しい腕に自らの腕を絡め、その胸に顔を埋める。



彼はその指に髪を絡めては梳き、絡めては梳き…







例えばね、愛を語るなら その指で、



(気持ちいい…)
(じゃあ、もっと気持ちいいことシてやるよ)
(じゃあ、最後まで面倒みて下さいね)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ