kid

□例えばね愛を語るなら とびきり甘く
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―――


「これは一体…」




外から聞こえて来た物音に目が覚め、何事かと思い表に出れば、昨夜別れを告げたはずの彼らが店先の花達を運び出していた。

その様子を飲み込めず呆気に取られていると、彼は現れた。




「俺と来い」




花が大事なら連れて行けばいい。そう言った彼の口は綺麗な弧を描く。



また、昨日と同じ様に指を絡めとられ、指先に舌が這う。

それと似た様に、その唇が今度は首筋を伝う。
肩口から首筋へ、口づけては舐めあげて、耳たぶをやんわり噛まれたかと思えば掠れた声が脳まで噛み殺す。




「お前がたまらなく欲しい」




言葉と共に、私の中に進入してくる“赤”。




「お花達を戻して下さい」




途端、握られていた手の力が強まった。




「急激に移り変わる気候に耐えられる花ばかりではありません。
だから連れて行くのは、あの子だけで構いません」




小さな鉢に目配せをすれば、次に視界は赤一色。


至極当たり前の様に重ねられた唇は、私が自分で身体を支えきれなくなるまで離れる事はなく、彼の腕に一身を任せる形になってもなお離れない。




「ん…ふ、………」



 
指も、腰も、舌も彼に絡めとられ、唾液の混ざり合う水音は羞恥を煽るが、同時に思考も何処かへおいやってしまう。

私の呼吸が途切れる寸前まで口づけてもまだ飽き足らないのか、唇を何度かあま噛みしてからやっとの事で離れた。


きっと私の唇も、彼のと同じ様に真っ赤になっているであろう。




「お前の全てが欲しい」




鼻筋から瞼、頬を伝って腫れ上がった唇へと、彼の指が私の輪郭をなぞる。




「名無しさん、お前が愛している男の名前はなんだ」




言ってみろ。彼は何とも凶悪な笑顔を浮かべ、そんな催促をした。


頭の隅っこにいた衝動は今や私の中枢で叫ぶ。




「キッド」




その赤い髪に指を絡め、赤い唇に指を這わせる。

“触れたい”その衝動は、もうとどまる事がない。とどめる理由がない。



真っ赤な唇同士、また重ね合わせる。





例えばね、愛を語るなら とびきり甘く



 
(やっぱりたまんねェな。出航は1時間遅らせる)
(?)
(一発やっとかなきゃおさまんねェ)
(!!、そ、それは、ちょっと…)
(なんだよ、昨日からどんなに誘ったって飄々としてたくせによ)
(あ、あれは、びっくりし過ぎて、反応が出来なくて…)
(ハッ、まぁいい、とにかくこのままじゃおさまりつかねェからな)
(え!?いや、あの、ちょっと待って下さい…!)
(何だよ!“初めて”でもあるまいし)
(は、は、初めてです…!)
(ハッ、やっぱりお前はたまんねェ)





 
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