気まぐれ女王様3
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ルナがヴァリアーに帰還し、さくなとありな、ヴァリアーの顔合わせを終えた後、ルナはスクアーロの部屋でスクアーロと共に眠った。勿論再会して早々事に及ぶなんて心配をルナはしていないので、何も考えずに同じベッドに入った訳なのだが。
「(眠れない…… )」
此方へ帰ってきてから、共に眠るのは2回目なのだが、1度目は泣き疲れていたのでそれどころではなかった。だが、今こうして同じベッドに眠るという事は……意識せずにはいられないのだ。
ねぼけて緩く回されている筋肉質な男の腕
寝間着を隔てて感じる体温
規則的に聞こえ、首筋に当たる寝息
「(…なんで寝てるのさ馬鹿鮫)」
こういう役回りはあたしじゃなくて君だろう
そう理不尽な事を思った所で。心を読む術のないルナにはスクアーロがどれだけ眠りにつくまでに労力を要したのかも知らない、どれほどの葛藤があったのかも知らない。
交感神経が落ち着いてくれそうもない事はわかりきっていたので、ルナはそっとベッドを抜け出し、着替えて部屋を出る。真っ赤な顔をしている自覚はあったので、誰にも会わないよう外へ出て、まだ白んでいる空を見上げる。顔の熱が冷めてきた所でベルが顔を出した。気配を辿って来たのだろう。
「早いね。今日は槍が降るんじゃないかな?それとも離れていた間に早起きの習慣がついたのかい?」
「失礼じゃね?まぁ今でも早起きなんて滅多にしねーけどな、ししっ」
何となく目が覚めて、ルナに会えてラッキー
歯を見せて笑うベルに、ルナも微笑んだ。他愛ない話をして、そろそろ朝食でも取ろうかという時間になった時、屋敷の中へ繋がる扉が物凄い音を立てて開いた。ベルと同時にそちらを見れば、酷く切羽詰った表情のスクアーロが。
ベルがうげ、と嫌そうに声を上げる。目があった、と思うとスクアーロは一直線に走ってルナを抱きしめた。再会の時はしっかりと抱かれている感があったのだが、今はどうも潰される予感しかせず、ルナからうめき声が上がる。それほどに強い力だった。
「ちょ…苦し…!」
訴えても、腕の力を弱めるつもりはスクアーロにはないらしい。ベルは先に行ってるぜーと声を掛けてから室内へ入っていった。黙ったままぎゅうぎゅうと締め付けられる腕。そっとその背中に腕を回せば、やっとその力は緩んだ。
「…っ、帰ったのかと思ったじゃねぇかぁ…!!」
ぎゅう、と胸が締め付けられる感覚をルナは覚えた。呼ばれる名前は甘いというより、酷く切なかった。表情を見る事はかなわなくても、容易に想像できる。この事を切欠にルナは、朝起きると互いが互いを必ず一度起こすという習慣を身に着けた。