銀魂
□第19話
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ガンだのギィンだの、この世界に来て聞きなれた音が響く。その当事者は自分なのだが、結局どうしてこうなったのか自分でも定かじゃない事にケイは呆れるしかなかった。戦いたくないなら、全部放り出してここから逃げればよかった。何をこんなになってまでやってんだか。ただ、これ以上マナや真選組の人達と居たくなくて、逃げたかっただけだ。あんまりしつこいから、それを追い払っているだけだ。追いかけてこなくなるまで、逃げればいいだけなのに。
「…しつこいねー、ほんと…っ」
横から薙がれる木刀を身を引いて交わし、体勢も整わぬまま反撃。それが当たらないなんて承知で、相手が回避後の体勢に気を取られた瞬間にまた一撃。
「…っ、基本スペックが違うんだよー?」
互いに息を切らしているものの、ケイの方がまだ余裕そうに笑みを見せた。傷も、マナの方が既に随分多い。互いに皿はついたまま。
元々、ケイは興味を惹かれて数々のスポーツをこなしてきた。それも極めるまではいかず、そこそこの成績でやめてきたのだが。要は飲み込みや反射神経、ついで運動神経も優れている。この世界の人間がチートだという点を差し引けば、ケイも十分”強い”と言っていい部類だ。
「頭もいい。運動だってできる。容姿もいい。なのに、ケイは自分が嫌い」
「……」
「今、ここで。ケイの嫌いなケイの事、残らず肯定する」
「…わっかんないなー」
熱血とか、面倒だよねー
言いながら、踏み出した。こめかみを狙えば防がれ、足が下から上がってくる。木刀を持つ手と反対の手で防ぎケイは後ろへ飛んだ。
「(どんどん…動きがよくなってきてる)」
少し離れた、目先にいるマナが、ふーーーーっと、長く息を吐き出した。
「――――独りでいる事で予防線を張るっ…!」
猛攻だった。
「それでも関わりが欲しくて、そんな自分を否定して…!」
息もつけぬほど。
「それでも探してるって知ってる…!」
一瞬の隙をついて、思い切り力を込めて木刀を横に薙ぎ払えば、マナはそれをモロにくらってとんだ。もしかしたら、肋骨いったかもしれないと自分がやった事だが何も思えなかった。
「何を…知ってるみたいに」
壁に背を預け、尻餅をついたまま、それでもマナは真っ直ぐにケイを見据えた。
「知ってる。ずっと見てた」
そこで、ケイは思う。目の前のこの人物は、はたしてこんな人間だっただろうかと。人形のような無表情で、無機質な声で、真っ黒な瞳で。他人になんか興味のない、そんな女の子じゃなかっただろうか。無表情こそ変わらないものの、この切羽詰った息切れはなんだろうか。熱のこもった眼差しは。その必死さは。
「…そういう所が、嫌いだってー。あたしはそういうの要らないんだってばー。一人で十分、楽だし」
もうこれは起き上がれないだろうと思っていたのに。マナはそれでも、もう動かすのも辛いだろう身体で起き上がる。