気まぐれ女王様2
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夢を見ていた。
研究所で飼われていた事。ありなと出会った事。さくなと出会った事。バベルに身を置いた事。裏切られた事。京介に付いていった事。この世界へ来た事。出会い、笑い、泣いて、自分自身が変わった事。
「―――――……いや、変わってはいないね」
思い出しただけ。
悪くはない気分で、エリはベッドから起き上がる。闇の試練で続いた戦闘の疲労ももう感じない。という事は随分寝ていたのか、と何気なしに彼女は部屋の壁にある時計を見た。そして顔色はみるみる内に血の気を失ってゆく。
「過ぎてる……!」
起こしてくれたっていいじゃないか…!
苦虫を噛み潰した表情で、彼女は慌しく身支度を整え、自室の窓から飛び出した。
並盛中へ近づくにつれて、嫌な予感が胸をうずまく。屋根伝いへ夜を駆けて、駆けて、駆けて。並盛中が目の前に見えたその先に、見慣れた人影がいた。
同時に、ザンザスの高笑いのおかげで、スクアーロが負けた事を知る。
「…そんなに急いでどこへ行くんだい?」
京介は笑った。心底意地が悪そうに。エリは、この後の展開を予測できた。京介がなんと言うのか、想像しなくてもわかった。
「京介…!」
「まさか、助けに行くなんて言うんじゃないだろうね?」
ああホラ、やっぱり。
「…っ、あたしは急いでるんだ。どいて」
京介は、普通人が大嫌いだ。それはエリがバベルに裏切られるずっと前。京介自身も裏切られ、胸と額を銃で打ち抜かれ殺されかけていたからだ。それでも彼は奇跡的に生き残った。要するに、京介とエリは、全く同じ軌跡を辿っていた。
「普通人を、助けるのか?普通人に、忌み嫌われたその力で」
便利で、強大なその能力。念じるだけで、人を殺せるその力。正しい事だと信じてやってきたことは、実際普通人にいいように使われていただけ。その証拠に、いざ自分達の脅威になれば普通人は簡単に裏切ってみせたのだ。そして京介と同じように、エリも誓った。他の誰でもない、自分自身に。
「ああ、誓っていたさ。―――あたしの能力は、同じ超能力者の為にしか使わない!」
まるで睨みつけるように、目の前の京介を見た。憎しみこそないが、敵意が感じられる程に。
「なら、」「誓いが何?」
「……、」
「あたしは、あたしのやりたいようにやる!!!」