宝物小説
□神様より 花田
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―あ、あの背中は…
「花井!一緒に部活行こうぜ!」
「おー、田島ー」
放課後。掃除も終わって部活生徒はそれぞれの活動場所に移動しているから、わりと教室や廊下は静か。だから花井も、呼び止めた俺の声にすぐ気が付いたらしい。すこし立ち止まって待っていてくれたから、俺はすぐに追いついた。
二人並んで階段目指して歩く。へへ、もしかしなくても今二人きりじゃねえ?…あ、そういえば
「いいよなー、名前呼びって」
「は?」
気付いたら、俺は呟いていた。あれ、おかしいな。心の中で思ってたつもりだったんだけど。
横にいる花井は不思議そうな、変な顔をしている。そりゃそうだよなー、急に言い出したわけだし。
「いや、さっき教室で阿部が三橋にキスしながら『廉』って言ってるの見たからさー」
「あいつら…最近人目気にしなくなったよな…」
ハァとため息をついた花井。見られたらどーすんだろうな、なんて言って。
俺はそうは思わないけどな。いいじゃん、人目なんて気にしなくて。だってコイビト同士だし、どーせだから見せつけてやりたくね?
…いや、そんなことよりもさ、今俺が気になってんのは名前呼びなんだって。
花井は恥ずかしがって学校じゃ名前で呼んでくれないし、二人きりでもそうだ。アノ時くらいだろ、呼んでくれんの。
だからさ、三橋達に影響されたのかもしんねーけど、ちょっと羨ましいかなー…なんて思っちゃったりするわけなんだよ。
「なんかさ、上手く言えないけど名前呼びってゲンミツにイイと思う!」
「はいはい」
む、なんだよ冷てーな!
…まあ照れ屋な花井がそう簡単に呼んでくれるわけないけどさ。でもこーゆー時くらいさ…
「田島…なにむくれてんだよ」
「べーつーにー」
ちょっと歩く速度を上げる。まぁいじけても仕方ない事だってわかってるけど。でもなんか、グルグルした気持ち。
「…ったく」
「わ!」
花井のため息が聞こえたと思ったら、急に後ろからギュッと抱き締められた。
そして耳元で。
「…ほら、早く部活行くぞ」
耳を真っ赤にした花井はさっさと階段を下りて行く。逆に俺はその場でボーゼンとしてしまって。頬はどんどん熱くなって。
「―…っ」
俺は花井の背中を追って階段を駆け下り、グンとシャツの襟を引っ張った。
「ぐっは!な、おま…」
今は段差のお陰で身長差は無いから。
同じ高さにある花井の唇に自分のを思いっ切り押し付けた。この嬉しい気持ちが、伝わればいいと思って。
「〜マジ好きだ梓っ!!」
「はいはい」
耳元で囁かれた『悠』という名前。
自分の名前がこんなにも甘く聞こえたのは多分初めてだった。
end