宝物小説

□まいご様より 花田+阿三
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少年達の休息。



午後からは市営のグラウンドでの練習だと言われ、部員10人は駆け足で練習場へと向かった。百枝と篠岡は別行動で後から来るという。
「花井ー便所ー」
「はあ?」
着いて真っ先に水谷が手を上げ、じゃあおれもーと数人が口々に同意見を零す。初めて来たグラウンドの手洗いの場所がわからず花井がきょろきょろ辺りを見回していると、田島が背後から近付いてきて言った。
「便所ならそこの廊下行って右手の通路行ったらあるぜ!」
その言葉に部員は駆け足気味に廊下へ向かう。花井は振り返って田島を見て口を開く。
「よく知ってたな」
「俺シニアん時とかよくここで練習あったんだよね。そいでさあ、あっちの方に…」
不意に田島の言葉が切れた。花井が帽子を脱いで顔に風を送りながら田島を見ると、きらきらとした瞳が見つめてきた。その目にたじろぐ花井の手を取り、田島はグラウンドの入り口へと戻る。
「な、な、な」
花井は自然と手を引かれて転けそうになるも何とか体勢を立て直し、未だ駆け足で塀の裏側へ進む田島の背に言葉を投げる。
「田島!なんだよ!」
「こっち!」
塀の角を曲がると、高い木の下に柔らかな草の生えた場所があった。強い陽射しも緑の葉で緩和され、じわりと辺りに暖かさが満ちる。
「ここで昼寝したらちょー気持ちいいんだぜ!」
「ふーん…」
あ、なんかスゴい嫌な予感。
手首を掴む田島の手に力が籠もるのを感じ、花井は視線を虚空へ向ける。田島の口から出た言葉は、予想に反しなかった。
「昼寝しよーぜ!」
「ダメだ」
花井の即答に田島は目を丸くして驚くが、拒否の意味に気付いて口を尖らせて下から不満げに見る。
「なんでだよ!まだ時間あるじゃん!!」
「あるけどダメ」
「…はないー」
「…ダメ。すぐ練習だろ」
「練習前の充電!」
なあなあーと田島はぐるぐると花井の周りを回り、花井はきつく眉を寄せていたが、だんだんと八の字にして溜め息を吐いた。ああ本当、自分は田島に甘い。
「…ちょっとだけだからな」
「よしゃー!」
「うおぇ!?」
田島は花井の腕に腕を絡ませ、そのまま草の上に転がり込む。花井の悲鳴は気にせず、転がる花井の腕に頭を乗せて田島は体を擦り寄せた。
「んはは、花井あったけー」
「あちぃ…」
密着した部分の服の下は汗が浮かぶが、二人は離れようともせずそのまま空いた手を絡ませる。
「…田島?」
何とも早く、田島は寝息を立てだした。連日の練習でやはり疲れているのだろうな、と花井はふわりと笑って田島の手を強めに、けれど優しく握った。
さわりと撫でる風が吹き、田島の黒髪が花井の首筋に触れる。
確かにこの場所は気持ちがいいな。
思いながら、花井は意識を落とすように目蓋を閉じた。
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