text「parallel」

□白砂行
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俺は何にも知らなかった。

アイツの全部が不思議だった。

アイツと一緒にいたら、毎日が楽しくて楽しくて。
気が付いたら。
ずーっと一緒にいたくなってた。

アイツは人間だから、本当はずっと海では暮らせないけど。
でも、俺がいるから、多分大丈夫。
青い玉は怖いけど、それはこれから何とかすればいい。
ジャンには叱られるかもしれないかな。人間を島に入れちゃったから。
けど、ジャンがずっと探してた青い玉が見つかったんだから、ちょっとは喜んでくれると思う。

早くアイツの中から玉を取り出して、それから一緒に暮らすんだ。




海を青い影が一直線に渡っていった。


朝。
シンタローはマジックと別れると、入江を抜け、島から少し離れた海底に眠る沈没船を目指した。その一帯は珊瑚が茂り、人魚が集う場所であった。シンタローは、そこから、仲間にジャンを呼んでもらおうと考えたのである。
普段、島から出る事のないシンタローはすっかり忘れていた。
自分の体色が変わっていた事を。
そして、それを見た仲間たちがどんな反応をするかなど、想像もしなかった。
「シンタロー!なんだ、その身体は!」
人魚達は、シンタローの姿を見るやいなや、口々に彼を問い詰めた。シンタローは思いもよらぬ仲間の態度に驚くばかりである。
「身体って・・・」
「その身体の色だ!お前、一体何をしたんだ!」
「あ・・・、これは・・・えっと・・・」
詰問されても、シンタローには答えられなかった。もちろん、原因はもう分かっている。しかし、マジックの事を話すわけにはいかなかった。島に仲間たちが行けば、どうなるか分からない。
俯き加減に「・・・知らない・・・」と答えたが、当然のように、仲間はそれでは納得をしてはくれなかった。
数人の大人たちが、がしりとシンタローの腕を掴む。
「何するんだ!」
バタバタともがきながら、シンタローは喚いた。
「こら、暴れるな!」
「じゃあ、離せよ!」
「離したら、逃げるだろうが!ジャンが戻ってくるまで、お前はここにいろ!」
「なんで!」
「うるさい!」
暴れても腕は離れず、シンタローは岩礁の奥へと連れて行かれた。大人たちは、シンタローをその窪んだ所に押し込むと、大岩で入口を塞ぐ。まるで牢屋だった。
「出せー!!!」
喚いて、体当たりしたが大岩はびくともしない。
「大人しくしないか、シンタロー!」
岩の向こうで大人が言う。
「うるさいっ!俺は島に帰らなきゃいけないんだよっ!」
思わず叫ぶ。すると、岩を隔てて話す大人の声が聞こえた。
「島に、何があるんだ?」
自分が失言してしまった事にシンタローは気付いて、青ざめた。
「何もない!何もないよ!!!」
必死で叫んだが、もう返事は返ってこなかった。
「ああ・・・・」
シンタローは自分がまた間違えてしまったと思った。
後悔で身体中の力が抜けていく。
シンタローは大岩に頭をつけると、そのままずるずると崩れていった。
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