text「parallel」

□永遠の青2
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朝の光を浴びて、私は目覚めた。
脇に人魚が頬をくっつけて眠っている。
魚ではないと言うだけあって、干上がったりはしないらしい。
眠る姿は、上半身だけみれば、人間となんら変わりはない。
「・・・・ん・・・」
私が動いたせいで、シンタローも目を覚ました。
「おはよう」
私が声を掛けると、人魚は照れ笑いをした。
「俺、陸で眠るの、始めてだったんだ。・・・・気持ちよかった」
気持ちいい?
人魚の感覚は、やはり人とは違うのだろうか?
「アンタがあったかくって、ずっとアンタを感じてた」
「えっ・・・」
さらりとシンタローがそんな事を言うものだから、私の心臓は衝撃で潰れそうだった。
目の前がくらくらとする。
愛しさで。
「シンタロー・・・・」
名を呼ぶのが精一杯なほど、私は苦しくなっていた。
「ん、なに?」
真顔のシンタローが首を傾げる。
「!」
ああ、もう。
お前という子は!
そんな顔をするんじゃないよ!
私は堪らなくなって、抱きしめた。
間髪入れずに口付ける。
「んんっ!ちょっ・・・ん・・・」
夢中で貪った。
暴れる舌を追いこんで、吸った。
それがくったりと抵抗をやめるまで舐めとってから、ようやく解放した。
「・・・はぁ・・・っ・・・もう、何だよ・・・?」
息をついたシンタローの頬が赤くなっている。
だって、可愛いかったんだもの。
そんな事を言っても、お前はよく分からないって顔をするだろうけど。
そして、そんな顔をされたら、私はまたきっとお前を抱きしめちゃうよ。
「・・ふふ。でも、私もお前の夢を見たよ」
「夢?」
「お前が私を助けてくれた時の、多分、記憶じゃないかな。何にもない海にぷかぷか私は浮いてて、それをお前が見つけて、拾ってくれたんだよ。違う?」
「うん、その通りだ。アンタは潮の流れの島の方にいたから、俺でも見つけられたんだ」
「潮の流れって?」
「前に言わなかったっけ?この島の周りにはとても大きくて早い潮が流れてるんだ。だから、外からはなかなか入ってこれない」
ああ、そういえば、そんな事を言っていたなと思い出した。聖域なんだなと、その時はそれぐらいにしか思わなかったが。
「・・・それじゃあ、どうして、私はそこにいたんだろう・・・」
ふと嫌な感じがした。
そして、シンタローもそれには気付いたようだった。
大きく目を見開いている。
「・・・・・玉だ・・・」
人魚の手が、私の胸に当てられた。
私の中を探るような手つきだ。だが、その手は弱々しくて、ますます不安になる。
「ああ・・・俺、知らなかったけど・・・ジャンに知らせないと・・・・どうしよう・・・」
何かブツブツと言い始めた。
私は胸に当てられていた手に、自らの手を重ねた。シンタローの不安が怖かった。
「シンタロー、落ち着いて。まず、私に説明してごらん」
そう言って肩を抱き寄せると、私を見た。
「青い玉・・・あれがそうだったんだ」
おびえた様子で言う。
私は記憶を辿った。
以前聞いた「すごい力がある」という石の事だと、すぐに思い当たった。
「それが私の中にあるということかい?」
「うん。そうだ。アンタの中にあるよ。どうしよう・・・・」
「私の中にあると、何か問題が?」
私を見る人魚の目は、今にも泣きそうになっている。
「ジャンはずっとそれを探してる。探して、封印しないとダメなんだって・・・・・きっと青い玉が潮の流れを変えて、アンタをココに運んだんだ・・・なんで俺、そんな事、分かんなかったんだろう・・・・」
私は、どう答えるべきか思案した。
そして、多分、もっとも人魚が考え付かない事を口にしてしまった。

「黙ってればいい」

シンタローは、一瞬、私を知らない人を見るかのように見た。

「何、言ってんだ?」
ナニ、イッテンダ?

私はすぐに自分の間違いに気付いた。
慌てて取り繕う。
「いや、そうじゃないんだ。まずは、様子をみようと言ってるんだよ?だって、私はこの通り、何ともないんだから!」
ほら、シンタロー!
確かに私は若返ったり、食事を必要としなくなったりはしてるけど、とりあえず、私は私なんだから。
そうだろう?
そう言って、おどけてみせると、人魚はようやく表情を取り戻した。
「そうだな。うん、アンタは何にも変わってないよ」
そう言って、少し笑顔になった。
「今度、ジャンが戻ってくる時に訊いてみるよ」
「うん、そうしよう。ね」
そう言って、安心させるように背を撫でて、
「ねえ、シンタロー、海に入ろうよ。昨日、約束したとおり。私はお前の鱗を確かめたいんだ」
と提案すると、こくりと人魚は頷いた。
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