text「parallel」

□永遠の青
2ページ/7ページ

血だまりの中に弟が倒れている。
その姿は血にまみれ、美しい金髪と白い肌が僅かに見えるだけだ。
生前の彼の、明晰な頭脳から繰り出される鋭い戦略と、そのきつい美貌で、彼は氷壁と讃えられた。

その弟が、どうしてこんなところに、と思う。

誉れ高き軍人の一族に生まれ、将来を約束されたとして、その末路がこれか。

彼ほどの者がどうして死ななければならなかったのか。
愚鈍な王の下で、どうして生きなければならなかったのか。

馬鹿馬鹿しい。

我が一族は、何を求めたのか。
権力者の下につく事で得られた富の代償はこれか。

ふざけるな。






「おい、大丈夫か?」
揺すられて、私は目を覚ました。シンタローが不安そうに覗きこんでいる。その長い髪が私の胸をくすぐる。
「ん・・・どうして?」
木陰で昼寝をしていたのは覚えている。この島では食料の確保がすめば、後は何もすることがない。
「すごく怖い顔してた」
言われて、「ああ」と声を漏らしてしまった。
「悪い夢でも見たのか?」
「・・・そうだね。うん」
夢だったらよかった。でも、あれは過去にあった、現実。
人魚は私のはっきりしない態度に困っている。
その頬にかかる髪を除けて、見つめた。
「ねえ、シンタロー。お願いがあるんだけど」
「何?」
人の役に立てることが嬉しいらしい、目をパッと輝かせた。
「触らせて」
「もう触ってる」
「違うよ。この前みたいに」
「この前って?」
「下の方」
その目が一瞬にして凍りついた。
それから、一気に融解する。
触れている頬がどんどん熱くなっていくのが楽しい。
「や。ちょっと・・・それは・・・えっと・・・えっと・・・」
「痛かった?」
「え、嫌、全然、そんなことは・・・え、えっと・・・」
「じゃ、気持ちよかった?」
「・・・ううう」
彼は嘘がつけない。おかしいくらいに嘘は言わない。
「気持ちよかったなら、いいだろう?もっと気持ち良くしてあげるから」
「うううう・・・でも・・・でも・・・」
「何?」
「は、恥ずかしいじゃないか・・・」
「どうして?誰も見てないよ」
この島には二人だけだ。
「違うっ!俺だけすごくいっぱい声が出て、なんかおかしいし!」
「別におかしくないよ」
「それに、ヘンなのが出てくるし!」
「でもちゃんと治ったでしょ。もし出ちゃっても私が治してあげるから」
私は彼の逃げ道を即座に塞いでゆく。
そうして行き詰った彼に、
「お前の声が聞きたいんだよ。とても嫌な夢だったから、シンタローに触って忘れたい」
とねだる。
すると、この世に罪があるという事すら知らない人魚は、顔を赤らめて「ちょっとだけだぞ」と俯き加減に言うと、私に身体を委ねた。
「ありがとう、シンタロー」
そう答えて唇を重ねる。
私は事あるごとに彼にキスをしていた。
そして人魚は全く疑うことなく受け入れていた。
本当に感謝?
いいや、違う。
私はとっくに欲情している。
先日の行為もおそらくは無意識で望んでいたのだ。
どうすれば、彼を傷つけることなく手に入れる事ができるか、今の私はそればかり考えている。
指先が、肌が、人とは違う温度と感触を持つ彼を欲しがっている。

ちゅっ

唇が離れる瞬間、僅かに音がして、人魚が目を開けた。
黒い瞳が真っ直ぐに私をとらえて、胸がぐっと苦しくなった。
清らかな存在への、恐れと昂りのせいで、心が痙攣しているのだ。

・・・そんな風に私を見ないでおくれ。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ