text「parallel」

□魔術師は見た。
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昼を過ぎてから感じ始めた悪寒は、時間が経つほどにひどくなり、講義が終わった後、それは確信的になっていた。
「くそう。風邪引いた」
原因は明白だった。
昨晩のアレだ。全裸で寝たアレだ。
「やっぱり悪魔って身体に悪いんじゃねえのかなあー・・・」
熱に浮かされた頭でそんな独り言を呟いたら。
「悪魔がどうかしたんですか?」
と、頭上で声がした。
「シンタロー君。アナタにとって私の講義は子守歌ですか?」
生物の高松助教授だった。
「あ。すみません。ちょっと風邪引いてしまって・・・熱があるんです」
俺は突っ伏していた机から、ゆっくり顔を上げた。
ふらふらする。
「ほお。熱、ですか・・・」
高松は、妙なアクセントをつけて言った。
おいおい、なんだよその言い方。
アンタ、そんな言い方するから「マッドサイエンティスト」なんて古臭い枕詞がつけられるんだって。
「ああ、そうだ。いい薬があるんですよ」
奴はそういうとポケットを探った。
俺はその間に、バタバタと机の上を片付けて、帰る準備をする。
「ほら、シンタロー君、これなんですが」
奴はどぎつい紫色のカプセルを俺に示した。
「・・・先生・・・。風邪薬なんて持ち歩いてるんですか?」
ボケた意識でも、こんなアヤシー奴の薬なんて、貰えるわけがないと、警鐘が鳴る。
「いえ。これはビタミン剤ですよ」
だから、携帯していて当然、ということらしい。
どうしよう。
ビタミン剤は悪くないかも?
一瞬、思う。
「・・・・・・」
俺がそれに手を伸ばした時、
「私の自信作です」
高松がそう言った。
ぴたり、と俺の手が止まる。
すると、俺の手は、デカイ手に掴まれた。
「シンタロー、迎えに来たよ」
あ?
ぐらり。
俺の視界はピンク色になった。
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