text「parallel」

□まな板の恋(仮)
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泳ぐのに疲れたので、岩に腰掛けようと人魚を誘う。
シンタローは、私が抱きあげてやろうと思ったが、断られてしまった。
あの下半身でどうするのかと思ったら、波に乗るように身を持ち上げると、一瞬で岩に乗り上げてしまった。
上手いものだと感心する。

「当たり前だろ」
と、はにかむ笑顔が可愛い。

素肌にごつごつした岩は痛いだろうと、私は彼の肩を抱き、胸に引き寄せた。ぺたりと顔を寄せると、
「アンタは温かいな」
と、シンタローが呟いた。
「そうかな?」
水に入っていたから、むしろ私の表面は冷たいはずなのだが、人魚の体温は人とは違い、魚に近いようだ。
「火傷する?」
魚を売るものは、温かい手で魚には触れない。魚にとって、人間の体温は高すぎて、触れたところが焼けてしまうからだ。
それを忘れて、人魚に触れてしまった。
「大丈夫だよ。俺は魚に似てるけど、本当の魚とは違うから」
シンタローは笑って答えた。
その黒い瞳がきらりと光った。

海の精霊。
人よりも高位の存在。

なんにせよ、目の前の彼は、人間が安易に触れても良いとは思えなかった。
それでも、人は欲深い。
分かっていて、その美しい生物を暴きたくなるのだ。
無防備に投げ出された下半身の鱗が、乳白色の輝きを放っている。
「シンタロー。下を触ってもいい?」
そう尋ねると、シンタローは顔を上げて不思議そうな顔をした。
「いいけど・・・。なんで?」
好きだから触れたくなるという気持ちが彼には分からないらしい。
「好きだから。お前のいろいろを知りたくなるんだよ」
「ふうん・・・」
シンタローはぺちんと尾びれを動かした。
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