text「parallel」

□はらぺこてじなし
2ページ/11ページ

夜目にも鮮やかなピンクのスーツが、店の裏口の壁にもたれていた。

おお。でけえ。

俺も十分でかいが、その、すらりと伸びた足は外国人特有のスマートさで、壁の汚さと相まって、ちょっと絵画的ですらある。
それはピクリとも動かなった。

うーん、ホストの兄ちゃんかなあ?

ここは繁華街だから、酔いつぶれてしまったホストがいてもおかしくはない。
もっとも、ゲロを吐かれてしまうのは迷惑だが。

俺は近づいて、男の伏せられた顔を覗く。
そこに深く刻まれた皺を見つけて、自分の想像力の貧困さに呆れた。

なんだ、オッサンかよ。

身なりは、服のセンスはともかく、小奇麗でそれなりの地位の男に見える。酔客かと思ったが、酒の匂いはしない。

「オイ、アンタ。こんなトコで寝てると襲われるぜ」
肩を揺すった。
そうしながら、周囲を見ると、男が何も持っていないらしいことに気づく。

・・・もう、襲われた後か?

交番に連れて行かねえとなあ・・・と思いつつ、ぺちぺちと頬を叩くと。

パチ、と目が開いた。
「・・・・・」
無言のまま、顔を上げた。
男は、人形みたいに澄んだ青い眼をしていた。
「えっと・・・・」
まばたき一つせずに、男が俺を見ている。
そして、いきなり。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ