text「parallel」

□悪魔の食卓
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「てめえは、ホンットーにサイッテーだ!」
朝食と昼食の準備をしながら、俺は後ろの卓袱台の隣でちょこんと座っている中年男に文句を言った。
見た目は中年。
中身は悪魔。
その証拠に、気温の上がった室内で、奴はどピンクのスーツを着こなして、汗一つかいていない。
「だって、美味しそうだったんだよ」
けろっとそんな事を言うもんだから、俺は恥ずかしくなって、フライパンを激しく揺すった。
スクランブルエッグとウインナーがころころと転がる。
冷蔵庫を開けて、適当に取りだした食材だったが、自分の選択のいい加減さに腹が立つ。
こんがり焼けたウインナーは、いい匂いをさせていて、俺の腹がくぅっと鳴った。
「それにね。シンちゃんの方から誘ったんだから」
「ああ?どーゆーことだよ?」
俺はギロリと奴を睨みつつ、男の前に麦茶の入ったグラスをおいた。この悪魔は俺が食うような食事は必要ないらしい。
「シンちゃんの寝顔を見たいなーって思ってね。ちょっとのぞいたら。お前の下着がこんな感じでね」
そう言いながら、人さし指で山の形を示す。
「〜〜〜〜〜〜!」
衝撃に、俺は食っていたパンを噛み切ってしまい、残りがポトリと畳の上に落ちてしまった。
「シンタロー、汚いよ」
冷静な指摘。
「うっせえ!何言いやがるんだ!」
思わず叫んでしまった。
慌てて、自ら口を塞ぐ。
隣室に、多分、聞こえたと思う。
ドクドクドクと顔に血液が送られてしまう。
汗が噴き出る。
情けなくて、涙が出そうになる。

う・・・マズイ。

そう思って、目を擦ろうとした瞬間、目の前に悪魔の顔が現れた。
「!」
音も、気配も、何もなかった。
いや、コイツと俺との前には卓袱台があったはずなのだ。
物理法則とか、そーゆーのを全部無視して、目の前に悪魔がいた。
見開いた眼は俺をまっすぐに見据えて。
近づいた。

ぺろり。

反射的に閉じた瞳を舐められた。
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