text「parallel」

□ハウルのようなもの(仮)
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俺は、押し入れの中の真っ暗な階段を、手探りで進んだ。
ボロアパートのドコにこんな空間があるのか、さっぱりわからないが、階段はとりあえず一本道で何とか進める。
しばらく歩くと、道は平坦になり、さらに先には白い光が小さく見えた。

出口だろうか?

そう思いながら進むと、その丸くて白い光は、実はガラスがキラキラと輝くみたいに光っていて、それは出口ではなく、何か大きな物体だという事が分かった。
俺の近づく気配に気付いたらしい。
その物体がゆっくりと動く。
すると、風鈴の音を数百個重ねたような、透明で硬質な音が遠くで聞こえた。
美しい音色に、俺の足が止まる。
俺の先にある光る物体、おそらくは生きているそれに目を凝らした。
それは、とても不思議なものだった。
白金でできた、刃のように鋭い毛が全身を覆う獣だった。
長いたてがみ、といっても、それもまた細身の剣を思わせるような形をしていて、それが、硬質の音を立てながら、きらきらと光っている。
暗闇の中で、自ら光る獣。
初めてみる姿だったが、獣の、その青い眼で、これが、あの悪魔だという事が俺には分かった。

悪魔というには綺麗すぎる。

そう思った時、コイツの家来だという悪魔の言葉を思い出した。

『マジック様の前に、全ての悪魔は魅了されるのです…。あの方は誰にも触れられぬ孤高の存在』


聞いた時は、「何、気持ちの悪い事を言ってんだ」と思ったが、今、目の前の姿を見れば納得するしかなかった。
全身が刃物。
それだけで、本能的な恐怖を覚える。
しかし、目が離せない。
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