text「小品」

□copy art - cyan
2ページ/2ページ

以前はもっと快感を感じていた気がする。
使命の為ならと近づいた男に、いくらかの好奇心があったからかもしれない。
そして、まんまと男が自分に興味を持った時は楽しかった気もする。
だが、行為を何度か繰り返していると、快感はもう快感でなくなり、ただの揺らぎになり、ジャンは自分がただの穴じゃないかと思うようになった。
穴。
ぽっかり空いた穴。
その穴に、男が、己を突き立てている。
自分の腰を掴む男の力強さに、男の思いが伝わってくるようで、ジャンは思わず笑いそうになった。

こんな男が。
こんな男に。
世界が震えている。

「・・・苦しいのかい?」
ふいに男が優しい声で言った。
笑いを堪える表情が苦しげに映ったのだろうか。
目を開いて、男を見た。
青い綺麗な瞳が見える。
同じ瞳を、ジャンは知っている。その瞳を思うと、ジャンの表情からかすかに笑みが漏れた。
「いえ・・・大丈夫です・・・」
すると、男も微笑んで、ジャンにキスをしてきた。
そのキスに胸がズキリと痛んだ。得体の知れない背徳の悲しみだろうか。
痛みは、ジャンの無感動な身体を走った。
「ア・・・ッ・・・!」
ずくんと身体の奥が反応した。
その声に、何かを得たのか、男の動きが早くなる。
「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」
ジャンは身体を安定させようと、男の体に手を伸ばした。
男もジャンの身体をさらに貫こうと、彼を引き寄せた。
強く抱き締め合って。
二人は果てた。



終われば、何事もなかったように、男は部屋を出ていった。
赤い服は、男の戦闘服だ。身にまとった途端、男は世界の敵になる。
ジャンはシーツにくるまったまま、それを見送って、丸まっていた。
熱は外気にどんどん奪われて、自分が燃えカスのように冷えていくのが分かる。
「疲れたな・・・」
ぽつりと呟いた。
本当に疲れていた。

何かも、全部。




20091105
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ