text「小品」

□copy art-posi
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朝に、シャワーを浴びる事が、最近の日課になってしまった。
そうでもしないと、夢の痕がべったりとはりついて、まともではいられない。

「俺はアイツじゃない」

何度も自分に言い聞かせながら、洗い流す。
ボディソープの濃厚な泡が背中を流れ、尻の割れ目に辿りついた時、ぞくりと肌が粟立った。
「・・・っ!」
俺にとっては現実ではないのに、あの男が突き刺さっている気がする。
俺には、馬鹿みたいに優しくて、大きい手が、鬱血するほどの強い力で男の腰を掴んで離さなかった。
俺は、大きく息を吐いて、それから自分の腰を確かめる。
もちろん、手の痕なんかなかった。
目の前が滲んでいくのは、シャワーのせいじゃない。
俺は、ぎゅっと目を閉じて、そろそろと手を後ろへ回す。

疼いている。

したこともないのに。

夢の中のそこは、男を受け入れて、時折、ひくつく。
そうして、その疼きが極限にまでくると、前へと抜ける。
その瞬間、いや、いつでも、そこに感情はない。抱かれている男は、肉体の快楽を甘受しているだけなのだ。


目が覚めて、苦しいのは、俺だけ。

「あ・・・」
指の腹がそこに触れて、声が漏れた。
くちくちと弄る。
快感に、息が上がる。

こんなの知らなかった。
知りたくもなかった。

泣きながら、俺は果てた。
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