text「小品」
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24年間、そしてこれからも、この気持ちが変わらないということを確信して、私は、ついに息子に愛を告げた。
血の鎖に繋がれていたままなら、きっと告げたりはしない言葉。
「愛してる」
それが、父親という立場から出るものではなくて。
一個人としての。
劣情の対象としての・・・・言葉。
「・・・・・・・・」
シンタローは何も答えなかった。
長い髪の間から見えた瞳は、一瞬、厳しく光って逸らされた。
そして、何も答えないまま、踵を返し、歩き去ってしまった。
これは拒絶だろうか。
そう思うものの、しかし、シンタローの事を考える余裕は、今の私にはなかった。
彼が去ると同じくして、私の中から波が引くように何かが消え去っていく。
絶望?
目の前が白くなっていく。
肉体は重みをなくし、私は、紙きれのようだ。
真っ白な私。
ああ、なんだというのだろう、この気持ちは。
自然と笑みが漏れるよ。
頬の筋肉が、意思なく引き攣って、笑顔の形になっていく。
「ふふ・・・」
心の澱を捨て去って、嬉しいのに、頬を涙が伝う。