text「escalation」

□Piece
2ページ/4ページ

すんすんと子が鼻を鳴らす音が聞こえた。
マジックはカーテンに身を潜めて、その音を聞いていた。
・・・ああ、私は何と言う事をしてしまったのか。
気持よく眠っていた子を起こすばかりか、泣かせてしまった。
後悔に、身が縮む。
マジックは強引に仕事を抜け出して、屋敷に戻っていた。
遠征から戻ったものの、まだまだ仕事は残っていて、シンタローに会う為の休日は取れそうになかった。
それでも、こんなに近くにいながら会えないのは酷過ぎると、抜けて来たのだ。
顔が見られたら、さっさと戻るつもりで。
なぜなら、ようやく会えた父親がさっさと出て行かなくてはならないのなら、子は知らない方がいい。
会えた後、また見送るのは辛いだろう。
マジックはそう考えていた。
駆け寄りたいのを我慢して、シンタローが眠りにつくのを耐えた。



どれほど経ったのだろう。
おそらくは、そんなに時間は経っていないはずだ。
だが、マジックにはひどく長い時間に感じる。
子が泣きやみ、規則的な寝息が聞こえた時、彼が時計を確認したら、たったの5分ほどだった。
こんなに長い5分は初めてだな。
そう自嘲して、笑う。
ゆっくりと近寄って子が眠っているのを確認した。
布団から、身体半分が出てしまっていた。
気付かれぬようにとそっと布団をかぶせようと、持ち上げる。
クンっ。
布団はシンタローの足にしっかりと挟まれていて、思いっきり引っ張るようなかたちになってしまった。
「あ、パパ」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ