text「escalation」

□Piece
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夜。
マジックは細心の注意を払って、子供部屋に忍び込んだ。
クマ柄の黄色い子供用布団の中には、クマのぬいぐるみを抱き締めて、可愛い子供が眠っている。
そのふっくらとした白い頬を指の背で撫でる。うぶ毛とキメ細かな肌の感触がたまらない。
気持ち良くて、撫で続けると、子が身じろいだ。
「パパ・・・・」
小さな唇が、自分を呼ぶ。
しかし、目覚める気配はなかった。
・・・シンちゃんは、眠っていても、私の事が分かるんだね。
喜びが、マジックの全身に溢れた。
たまらなくなって、身をかがめて、その頬に口づけをした。
「ん・・・」
再びの刺激に子が顔を動かした。
一瞬、お互いの唇に触れる。
子の、ぷっくりした赤い唇に吸いつきそうになって、慌てて、身を離す。
「んんっ・・・」
子の動きが激しくなった。



「パパ?」
シンタローの目がパチリと開いて、辺りを見渡すが、暗い部屋はいつもどおりシンと静まり返っている。
彼が眠る時は、執事が小さな灯りをベッドサイドに灯してくれているが、シンタローが眠ると、それはいつの間にか消されていた。
眠ってしまえば気にならない闇が、一人ぼっちのシンタローに重くのしかかる。
怖くなって、クマのぬいぐるみにしがみついた。
「パパ・・・・」
夢の中に父親がいた。
いつもするように、ほっぺにキスをされて、くすぐったかった。
とても嬉しかったのに。
今は真っ暗。
一人ぼっち。
屋敷の皆も、もう寝てしまっているだろう。
闇の中を歩く勇気が出てこない。
何より、そんなの恥ずかしい。
だって、パパの子なんだもの。
ぐずぐず泣いてたりしたら、恥ずかしいもの。
我慢しなくてはいけないのだ、自分は。
それでも溢れてくる涙が苦しくて、ぬいぐるみの腹に顔をこすりつけた。
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